アンハッピー・ウエディング〜後編〜
俺は「簡単」モードだったから、フルコンボ…とはならずとも、ノルマクリアは達成した。

一方、寿々花さんの画面では。

「ノルマクリア失敗」の、非常に残念な文字。

うん、知ってた。

プレイしながらずっと、寿々花さんが「あわあわ。あわわわー」と呟いてるのが聞こえてきてたから。

リズムもへったくれもない。ただデタラメに太鼓をどんどん叩いてるだけだった。

「悠理君…失敗しちゃった」

「うん。見たら分かるよ…」

ってか、プレイする前から分かってたことだろ。

初心者が「鬼」モードなんて、無理に決まってる。

日々ゲーセンに通い詰めて、マイバチとか作ってプレイしてるコアなファン向けだろ?鬼モードって。

とても初心者が手を出して良い難易度ではない。

「私…才能ないのかな…?」

やべぇ。またしょんぼりモードに入ってしまった。

「そっ…そんなことないって。初めてなら誰でもこんなもんだよ」

「そうなの…?でも、悠理君はクリア達成だって」

「俺はほら、簡単モードだから。難易度、一番簡単にしたからクリアしただけだ」

俺だって鬼モードだったら、絶対ノルマクリア達成は無理だったよ。

寿々花さんと似たようなもんだったと思う。

しかも。

「あ、寿々花さん。見てみろ」

「ほぇ?」

「ノルマクリア失敗でも、もう一回遊べるって」

「!」

ノルマクリア達成、未達成に関わらず、百円で2曲分は遊べる仕様になってるみたいだ。

さすがにな?

「リベンジ出来るみたいだぞ。もう一回やったら上手くなってるかも」

「本当?じゃあさっきと同じ曲、もう一回やる」

同じ曲なのかよ。

ジングルベル再び。

まぁ、同じ曲じゃないとリベンジ出来ないもんな。

「今度こそ、難易度を『簡単』に…」

「もう一回『鬼』にしよー」

「おい」

何やってるんだ。さっきので懲りてないのかよ。

「さっき全然駄目だったから、今度はもうちょっと上手く出来る気がする」

「…何?その自信…」

根拠のない自信は身を滅ぼすぞ。

「悠理君は?さっきと同じ難易度にするの?」

「え?俺は…」

…どうしよ。

もう一回…「簡単」モードでフルコンボ狙おうかと思ったのに。

寿々花さんが果敢に「鬼」モードに再チャレンジしているのに、俺はまた「簡単」モードに逃げるのか。

…ここで難易度を上げないのは、男じゃないよな。

「分かったよ…。じゃあここは難易度を上げて…」

「おぉー。悠理君も難易度鬼モードに…」

「難易度『普通』で」

「えー」

えーじゃありません。

失望したか。ショボい奴だと思ったか?

身の程を知っていると言ってくれ。

俺だって太鼓の鉄人、そんなに得意な訳じゃないからな。
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