アンハッピー・ウエディング〜後編〜
しかし。 

その数分後、俺は信じられない光景を目にすることになった。

「くっ…!無理だったか…!」

調子に乗って難易度を「普通」にしたのは、やはり間違っていたかもしれない。

ギリギリのところで、ノルマクリア失敗。

あとちょっとだったのに。惜しかった。

身の程を知っているつもりだったが、まだまだ身の程知らずだったということだ。

畜生。もう一回やったらノルマクリア達成出来ると思うんだが。

まぁ、でも。

もう一回「簡単」モードで、無難にノルマクリア成功してお茶を濁すより。

より上を、より高みを目指した、俺のチャレンジ精神を評価してくれ。

で、寿々花さんは…と。

「…!?」

「やったー。見て見て、悠理君」

隣の画面を見て、俺は驚愕のあまり、手に持っていたバチを取り落とした。

あっ、お店のものなのに。ごめんなさい。

しかし、俺は寿々花さんの画面から目が離せなかった。

つい数分前、まるで歯が立たずにノルマクリア失敗していたはずなのに。

太鼓のキャラクターが嬉しそうに、「ノルマクリア成功。フルコンボだドン!」と高らかに宣言していた。

え、嘘だろ?

フルコンボってあれだろ?一回もミスらずに叩き切ったってことだろ?

え、嘘だろ?

さっきまで、デタラメに太鼓叩いてるだけだったのに。

「ね、もう一回やったら上手く出来る気がする、って言ったでしょ?」

得意げな寿々花さん。

そりゃ難易度「鬼」モードでフルコンボしたら、ドヤ顔にもなるだろう。

しかも、これ人生で二回目のプレイだからな。

一回目で派手に失敗して、二回目の挑戦でフルコンボって…。

「…あ、あんた…成長能力高過ぎだろ…!」

こいつ、戦いの中で成長…するにも程があるだろ。

たかが二回の挑戦で。難易度「鬼」を完全クリアするなんて。

自分の画面に一生懸命で、全然気づかなかった。

寿々花さんの手元は、先程とは比べ物にならない俊敏な動きで太鼓を叩いていたに違いない。

そういや、思い出した。

この人、格闘ゲーム「スマッシュシスターズ」にせよ、レースゲーム「ロミオカート」にせよ。

ゲーム、めちゃくちゃ上手いんだった。

一回目は失敗するけど、逆に言えば一回目しか失敗しない。

「…寿々花さん…。あんたって人は…」

「ほぇ?」

「…いや、何でもない…」

とにかく、今俺の隣にいる人が、半端じゃない天才だってことはよく分かった。

だが、その天才本人が、全く自分の才能に自覚がなく。

きょとんと首を傾げて、ぽやーんとした顔を晒しているのを見ると。

途端に何も言えなくなるんだから、本当ズルいよなぁ。
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