アンハッピー・ウエディング〜後編〜
『ブラック・カフェ』が誇る、ご自慢のメニューについて紹介しよう。

まず一番のおすすめは、黒いカップに入った真っ黒い紅茶。

コーヒーじゃないぞ。紅茶なんだって。

他にも、クリームソーダ、ココア、ホットミルク、ミックスジュースなど、喫茶店の定番ドリンクも置いてあるらしいが。

それもこれも、全部真っ黒。

黒いカップの中に、並々と黒々とした液体が満たされている写真が、メニュー表に堂々と載っていた。

一周回ってホラーだな。

ココアは分かるけど。黒いホットミルクって何?

それ、本当に牛乳か?

ドリンクメニューだけでも、あまりの黒々しさに辟易したが。

こんなものは、まだまだ序の口。

恐ろしいのは、フードメニューだった。

黒いパンに、黒い具を挟んだブラックサンドイッチ。

黒いお米に、黒い具材がたくさん入った黒いルーがかかったブラックカレー。

黒いアイスクリームに、黒い生クリーム、チョココーティングされているらしい、黒い果物がたくさん乗ったブラックパフェ。

生地も生クリームも、勿論全てが真っ黒のブラックスフレパンケーキ。

などなど。

メニュー自体は、大抵どのカフェにもありそうな定番商品ばかりなのだが。

このカフェは、それらのメニュー全てが真っ黒なのだ。

とにかく全部真っ黒。お皿もフォークもスプーンも真っ黒。

「すげーな…。全然食欲がそそられない…」

寿々花さんの料理みたいだ。

これ…全部コゲてんじゃないよな?

話題性はあるけど、見た目のインパクトばかりが強過ぎて、味は二の次って感じ?

俺にとって、サンドイッチと言えば、

鮮やかなレタスの緑と、ハムのピンク色、黄色のチーズを白いパンで挟んだ、あのカラフルなコントラストが食欲をそそられるのであって。

断じて、こんなパンも中身も全部黒い、得体の知れないサンドイッチ、サンドイッチとは認められない。

つーか、これ中身何挟んでんだよ?

「かろうじて、黒いカレーはギリギリセーフか…?」

「お米も真っ黒ですけどね」

「あ、そうか…。やっぱりアウトだな…」

黒いお米って何だよ。おコゲか?

いずれにしても、全然食欲湧かない。

「これ、どうやって黒い色をつけてるんだ?着色料…?」

だとしたら、余計気持ち悪くて食べられそうにないのだが…。

食紅って奴?あれの黒バージョン?

あれをふんだんに使って、白いパンやお米を黒く染め、サンドイッチの中身のレタスやチーズまで真っ黒に…。

薬漬けみたいなもんじゃん。

しかし。

「驚くなかれ、悠理兄さん」

「何をだよ?」

こんなお店がこの世に存在している時点で、大いに驚いてるよ。俺は。

「この店のメニュー全部、合成着色料は使ってない。全部天然素材を使った、自然の色なんだってさ」

「…!?」

嘘だろ。これが天然素材?自然の色?

…もしかして、俺の知らない異界の食べ物だったりする?
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