アンハッピー・ウエディング〜後編〜
メニュー表の端っこの方に、書いてあったよ。

合成着色料不使用・無添加、って。

天然の素材で、どうやってこんな食べ物を何もかも真っ黒にしたんだ?

それって、逆に怪しくね?

大丈夫なのか…?

俺は不安になったが、雛堂と乙無はけろっとしており。

「よーし。んじゃー豪遊すっかなー」

「どんな味がするのか楽しみですね」

あんたら、気にならないのか?この漆黒の食べ物が。

だが、この店が連日行列必至の有名店だということは、つまりそういうこと気にしない方の人が多いんだろう。

俺が神経質なのか…?いや、黒はおかしいだろ。どう考えても…。

食べ物で黒が許されるのは、イカスミパスタと海苔くらいなもんだよ。

ひじきと黒豆も許す。

が、それ以外の黒って…なんか怖くね?

それなのに。

「じゃー店員さん呼ぶわ」

「あ、おい勝手に、」

俺まだ決めてないのに、雛堂は店員呼び出しボタンを押してしまった。

ちょ、何注文すれば良いんだ。俺。

「お待たせ致しました。ご注文をどうぞ」

颯爽と駆けつけてくれた店員さんは、黒いシャツに黒いスラックス、黒いエプロンをつけて靴まで真っ黒、何なら胸元につけているネックレスまで黒かった。

しかも、めっちゃイケメンの店員さん。

ここ、ホストクラブか何か?

「えーっと、自分はこのおすすめドリンクのブラックホットティーと、ブラックバナナジュース、それからブラックハンバーグ&ブラックナポリタンプレートと、デザートにブラックスフレパンケーキを一つ!」

どんだけ頼むんだよ、雛堂。

「あっ、ついでに、このブラックミックスピザも!」

「はい、畏まりました」

雛堂の無茶苦茶な注文にも、爽やかな笑顔で答えるイケメン店員。

雛堂の次に、乙無が注文をした。

「僕は…ブラックホットチョコレートのLサイズと、このブラックパフェ、それからブラックチーズケーキ…。ブラックプリンアラモードと、期間限定、ブラックダッチベイビーをお願いします」

「畏まりました」

こちらも凄い注文。怒涛の甘いものラッシュ。

いかにも甘党の乙無らしい。

…ダッチベイビーって何?

こいつら、俺の奢りだと思って遠慮なく注文してやがる。

このカフェ、無添加天然素材の食材のみを使っているとあって、メニューの料金はどれもお高めである。

普通の喫茶店だったら、紅茶1杯500円前後だろ?

この『ブラック・カフェ』では、紅茶1杯900円だってさ。

たっか。どんな高級茶葉だよ。

貧乏性の俺はつい、「この900円で夕飯の材料が買えるのに…」とか思ってしまう。

悪かったな。みみっちくて。

「お客様。ご注文はどう致しましょう?」

「えっ?」

唐突にイケメン店員に話しかけられて、俺は虚を突かれてしまった。
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