アンハッピー・ウエディング〜後編〜
俺?俺のことだよな?

イケメン店員は、にこにこと、羨ましいくらい爽やかな笑顔でこちらを見つめている。

全然考えてなかった。自分の注文。

つーか、決める前に雛堂が勝手に呼んだんだよ。

「え、え、えっと…」

「あー。彼にはブラックオムライスと、ブラックホットキャラメルティーにブラック生クリームトッピング。デザートは期間限定のブラックみたらし団子で」

おい。雛堂あんた、何勝手に決めてんだ。

「畏まりましたー」

店員さんも。勝手に畏まらないでくれ。

ちょっと待て、その注文は取り消し、と言おうとしたのだが。

そのタイミングで、他のテーブルのお客さんに声をかけられ。

「それでは失礼致します。少々お待ち下さい」

と言って、爽やかな笑顔で一礼。

呼ばれたテーブルの注文を取りに行ってしまった。

…見るからに忙しそうなのに、呼び止めて注文キャンセルを頼む訳にもいかず。

「…雛堂…貴様…」

「良いじゃん。どれも美味そうだし。なぁ?」

なぁ?じゃねぇんだよ。

勝手に注文しやがってよ。これで食べられない代物が出てきたらどうするんだ?

その時は、雛堂に責任持って食べてもらうからな。

だって、メニュー全部真っ黒なんて、絶対まともな食べ物じゃねーよ。

アレだよ。見た目のインパクトだけで、食べてみたら全然美味しくないパターン。

そりゃ、料理において、見た目は確かに大事だと思うよ?俺だって。

だけど、見た目は美味しそうなのに、食べてみたら全然美味しくない料理と。

多少見た目は悪くても、食べてみたら美味しい料理。どちらを食べたいかと聞かれたら。

普通に考えたら、誰だって後者を選ぶだろう?

ここのメニュー、高くて黒いばっかで、全然食欲そそられないしさ。

注文には慎重を期さなければならない、と思っていたのに。

雛堂に勝手に決められたせいで、もう後の祭りだよ。

食べ物を無駄にはしたくないのだが?

…美味しくなくて良いから、せめて不味くはない料理が出てきますように。
< 588 / 645 >

この作品をシェア

pagetop