アンハッピー・ウエディング〜後編〜
などと、必死に願っていた俺のもとに。

「お待たせ致しましたー」

注文したメニューを黒いトレイに乗せて、イケメン店員が戻ってきた。

来たな。

雛堂の遠慮のない注文のせいで、テーブルいっぱいに黒いお皿が並んだ。

俺の前にも、黒いティーカップと黒いオムライスのお皿が並べられた。

すげー…。マジでめっちゃ黒い。

「ご注文お揃いでしょうか?」

「うっす。お揃いです」

「ありがとうございます。それでは、どうぞごゆっくり」

相変わらずの爽やかスマイルをどうも。

…で、改めてテーブルの上を見渡す。

「…壮観だな…」

他になんて表現したら良いのか分からない。

何もかもが、墨汁を引っくり返したみたいに真っ黒なんだもん。

テーブルも黒、お皿も黒、お皿に乗ってる食べ物も飲み物も黒。

フォークもスプーンも黒。何ならお手拭きやナプキンまで黒いんだけど。

目が痛くなりそう。

「すげー!噂に違わぬ黒さ!写真撮っとこ」

雛堂はスマホを構えて、テーブルの上の料理を写真に撮っていた。

それ、その写真、意味ある?

写真で見たら、ただの黒い物体にしか見えないんじゃね?

知らない人にその写真見せても、これが何なのか答えられる人はいないだろう。

メニューを見たはずの俺でさえ、何なのか分からないくらいだから。

いかにも怪しい、およそ人間の食べ物には思えない。

「よっしゃ。いただきまーす!」

「いただきます」

それなのに、恐れ知らずの雛堂と乙無は、躊躇わずに黒いフォークを手に取った。

マジで?本当に食うの?これ。

勇気だけは認めてやるよ。

俺は自分の目の前の黒い…オムライスのお皿を見下ろした。

…これがオムライスだって言われて、納得出来る人間がいるのか?

オムライスって言ったら、鮮やかな黄色と、ケチャップの赤。白いお皿の上に、黄色と赤のコントラストが映える料理だと思うんだけど。

このブラックオムライスには、白も赤も黄色もない。

ただ、全てが真っ黒。

ケチャップライスを包んでるオムレツも、上にかかってるケチャップ(?)も黒い。

それでも、オムレツに包まれたケチャップライスだけは、ちゃんと赤色…であって欲しがったが。

全然そんなことはなくて、やっぱりケチャップライスも黒かった。

ってか、黒いケチャップって、それは果たしてケチャップと言えるのか?

寿々花さんの好物だから、俺もよくオムライスを家で作るけどさ。

こんなオムライス、寿々花さんでも食べるのを躊躇すると思うぞ。

…見た目のレビューはこれくらいにして。

今度は、オムライスの皿にそっと顔を近づけて、恐る恐る匂いを嗅いでみた。

見た感じ、とんでもない異臭が漂っているように見えるが…。

驚いたことに、匂いだけは普通のオムライスのそれだった。

ケチャップの酸味と、芳しい卵の匂い。

嘘だろ。全然そんな風に見えない。

カレーの匂いがする味噌汁を出されたら、誰だって戸惑うだろ?

今の俺、そんな感じ。

やっぱり怪しい。怪しいにも程がある。

なおも食べるのを躊躇っていた俺だが、一方の雛堂と乙無はと言うと。

「うんま!めっちゃ美味いじゃん、これ」

「うん。本当に美味しいですね」

二人共、大絶賛だった。

…嘘だろ?
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