アンハッピー・ウエディング〜後編〜
俺にゲテモノオムライスを食べさせようとして、二人して嘘をついているに違いない。

こんな恐ろしい見た目の料理が、美味しいはずが…。

「これめっちゃ美味いぞ、悠理兄さん。ブラックハンバーグ」

「…焦げてるだけじゃねーの?」

「んなことねーよ。ほら、見てみろよ」

雛堂はハンバーグのお皿をこちらに向けて、ナイフで切ったハンバーグの断面を見せてくれた。

勿論断面も真っ黒で、一体ひき肉に何を混ぜたらそんなハンバーグになるんだ、とシェフに聞きたいところだったが。

驚いたことに、ハンバーグの断面からは、ジューシーな肉汁がたっぷりと滴っていた。

いかにも食欲をそそられる、美味しそうなハンバーグだ。…色が黒くなければ。

「僕のパフェも美味しいですよ」
 
乙無も、大きな黒いスプーンを使って、パクパクとブラックパフェを頬張っていた。

黒いパフェグラスの底には、黒いコーンフレーク、黒いヨーグルト、黒いアイスクリームと、チョコレートでコーティングされた黒いフルーツがトッピングされ。

更にその上に、恐らくチョコレートソースだと思われる、黒いソースがたっぷりかかっていた。

…グロッ…。

よく食べられるな。そんなゲテモノ料理…。

「騙されたと思って、まずは一口食べてみたらどうです?」

躊躇して手が止まっている俺に、乙無がそう言った。

騙されたと思っても、これは食べ物に見えないよ。

「いや、でも…」

「見た目だけで判断するんですか?」

「うっ…」

そんな言い方はズルいだろ。

俺の心が狭いみたいじゃないか。

違うっつーの。俺の心が狭いんじゃなくて、あんたらの心臓に豪毛が生えてんだよ。

俺は正常だ。

…だが、いくら見た目が不味そうだからと言って、食べ物を無駄にするのは俺の信条に反する。

…それに、何より。

いつぞや寿々花さんが遠足で買ってきた、得体の知れない外国産のインスタントラーメン。

あれに比べたら、黒いオムライスなんて可愛いもんだ。

…南無三。

俺は恐る恐る、ブラックオムライスにスプーンを入れ。

一口、口の中に放り込んだ。

…すると。

「どうです?…美味しいでしょう?」

「…!美味い…!」

狐につままれたようだった。

そのオムライスは見た目に反して、ちゃんとオムライスの味がする…どころか。

俺が作るいつものオムライスより、遥かに美味しかったのである。
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