アンハッピー・ウエディング〜後編〜
オムライスだけではない。

テーブルに並べられた料理、その全て。

黒い生クリームがたっぷりとトッピングされたキャラメルティーも、デザートの黒いみたらし団子も。

雛堂と乙無が注文したピザやプリンアラモード、ダッチベイビーとかいうパンケーキも何もかも。

どれもこれも、びっくりするくらい美味しかった。

変な風味がするとか、エグいとか舌触りが悪いとか、そういうことは一切ない。

このお店が、どうしてこんなに繁盛してるのかよく分かった。

見た目のインパクトだけで勝負して、味は二の次三の次にしてるのだと思いこんでいたが。

そんなことはない。奇抜な見た目を抜きにして、味だけでも充分勝負出来る。

不味そうとか思って済みませんでした。美味しかったです。はい。

人を見た目だけで判断しちゃいけないように、料理も見た目だけで判断しちゃいけないな。

…いや、それでもやっぱり料理において、見た目は大事な要素だ。

食欲をそそられるか否かは、大事なポイントだと思うんだよ。

その点ここの料理は全部、全く食欲をそそられないが。

食べてみるとめちゃくちゃ美味しいんだから、なんとも不思議な感覚である。

「はー。もーギブ。なんも食べられない〜…」

情けない声で音を上げる雛堂。

「…そりゃそうだろ…」

あれだけ食べたらな。

一方の乙無は、あれだけ大量の生クリームを食べまくったにも関わらず。

「その程度でギブアップとは。情けない人間ですね」

普段と何ら変わりない様子で、けろっとしていた。

さすがだよ。乙無は。

かく言う俺も、最初あれだけ躊躇っていたのが嘘のように、あっという間にオムライスを完食してしまった。

デザートのみたらし団子までぺろりだから、『ブラック・カフェ』、やっぱり凄い。

「もっと色々食べてみたかったけどなー。さすがにこれ以上は無理だな」

「ここのメニュー、テイクアウトも出来るそうですよ」

マジかよ。

じゃあ、寿々花さんに何かお土産、買って帰ってあげようかな?

何が良いだろう…。さっき俺が食べたみたらし団子、美味しかったから、それにしようかな。

…すると、その時。

俺達の丁度真後ろのテーブルから、お客さんの話し声が聞こえてきた。
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