アンハッピー・ウエディング〜後編〜
…俺が、『ブラック・カフェ』で雛堂達と豪遊していた、その頃。




家で大人しく、留守番中の寿々花さんは。

「ゆーりくんは〜。スカートがとっても似合うよー♪」

自作の歌を歌いながら、せっせとお絵描き遊びに興じているところだった。

一人でちゃんとお留守番出来てて偉い、のだが。

その歌を俺が聴いていたとしたら、全力で否定していたことだろう。

「女の子よりも女の子〜♪女の子の中の女の子〜♪それがゆうりく、」 

とんでもない歌詞の歌は、ワンフレーズ歌い切る前に。

突然のインターホンの音に遮られた。

クレヨンを握ったまま、びくっとした寿々花さんは、立ち上がってリビングの窓に向かい。

玄関の方を見て、様子を窺おう…としたのだが。

「…見えない…」

残念ながらこの家は、リビングの窓から玄関を見ることは出来ない。

寿々花さんは覚えていた。俺が留守中に来客があったら、充分気をつけるように言われたことを。

怪しいセールスだったら、居留守を使うのも手。

しかし、リビングから玄関の様子を伺うことは出来ないし。

こうなっては仕方ない。

寿々花さんは歩いて、玄関に向かった。

恐る恐る、そーっと玄関の扉を開けると。

そこに立っていたのは、怪しいセールスマン…ではなく。

「こんにちは。無月院寿々花さん宛てにお荷物です」

ただの配達のお兄さんだった。

ずっしりした厚みのある封筒を手渡して、配達のお兄さんは笑顔で一礼、そのまま去っていった。

「…ほぇー…」 

セールスじゃなくて良かった、と寿々花さんは荷物を持って玄関の扉を閉めた。

同時に、自分宛てに送られた荷物を確認した。

送り主を確かめようと思ったのだ。

そこに書いてある名前は、寿々花さんの姉。

無月院椿姫さんからの荷物だった。

寿々花さん宛てに、椿姫お嬢様から荷物や手紙が送られてくるのは、珍しいことではない。

だから、今回もいつもの手紙だろうと思って、寿々花さんは躊躇いなく封筒を開けた。

しかし、そこから出てきたのは…いつもの荷物とは違うものだった。

「…!」

封筒の中身を見て、寿々花さんはしばし立ち尽くし、それらを見下ろしていた。

…すると。

再び、インターホンの音が鳴り響いた。

もう一度びくっとした寿々花さんは、恐る恐る玄関に向かった。

…また宅配便だろうか?「済みません、もう一つありました」と、追加の荷物を渡されるのだろうか。

そう思って、玄関の扉を開けたところ。

そこにいたのは、二個目の荷物を届けに来た配達のお兄さん…ではなく。

「やぁ、ごきげんよう。寿々花様」

「…円城寺君…」

寿々花さんの元婚約者、円城寺雷人であった。

俺がこの場にいなくて良かったな。

もしいたら、絶対に円城寺を家にあげたりはしなかっただろうから。
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