アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「円城寺君、どうしてここに…?」
「ちょっと用事があってね、日本に帰ってきたものだから、顔を見せに来ようと思っただけだよ」
そんなことの為にわざわざ来んな、と。
俺がその場にいたら言ってやっただろうに、生憎この時の俺は、『ブラック・カフェ』でオムライスを食べていた。
この場にいなかったことを、後で俺がどれほど後悔するか。
非常に口惜しい。
「…何だか、今日は静かだね。彼はいないなかい?」
円城寺の言う「彼」が誰を指すのかは、寿々花さんにもすぐに分かった。
「うん。悠理君は今いないよ。お留守番なの」
「ふーん。君に愛想を尽かして、家出でもした?」
円城寺にそう聞かれて、寿々花さんは、悪戯がバレた子供のようにびくっ、と身体をふるわせたが。
「…違うよ。お友達とお出掛けするって…」
消え入りそうな声で、寿々花さんはそう答えた。
しかし、円城寺は特に興味がないようで。
「ふーん?使用人か召使いの身分の癖に、悠長なものだね」
「悠理君は…使用人でも召使いでもないよ?私の大切な…お友達だもん」
「あんな分家の貧乏人が友達だって?全く笑わせてくれるよ。友達は選ぶべきだと思うね。無月院家の息女として」
「…」
寿々花さんは何も言い返さず、円城寺のいつもの偉そうな説教を聞いていた。
俺がこの場にいたら、塩撒いて追い払ってやっただろうに。
しかし、残念ながら俺はこの場にいない。
よって、今だけは、円城寺は好きなようにやりたい放題だった。
「まぁ良いや。ちょっと上がっていくよ」
「あっ…えっ…」
円城寺は無遠慮に玄関に上がってきたかと思うと、まるで自分の自宅に帰るかのように、堂々と家に入ってきた。
俺が留守なのを良いことに。
不法侵入として警察に通報してやれば良かったのだが、寿々花さんはそんなこと、思いもよらない。
ただ困ったように、戸惑ったように、親に見捨てられた子供のごとく、円城寺に好きなように振り回されていた。
勝手にリビングにまで上がってきた円城寺は、ぐるりと室内を見渡し。
うんざりしたように、こう言った。
「相変わらず、貧相な家だね…。無月院家の息女たる者、もう少しマシな家に住んで…お手伝いの一人や二人、雇うべきだと思うけど?」
余計なお世話だこの野郎、と。
俺が聞いていたら、間違いなくそう言っていたに違いない。
「…そんなことないよ。悠理君と一緒に、毎日幸せに、楽しく暮らしてるんだもん。ここはとっても素敵なおうちだよ」
「ふーん…」
寿々花さんの必死の抗弁を、円城寺はどうでも良さそうに聞いていた。
それよりも、と言わんばかりに。
「…?これは何?」
円城寺は、テーブルの上に置きっぱなしにしていた封筒を見つけた。
「あっ…。それは…」
先程配達のお兄さんが届けてくれたばかりの、椿姫お嬢様からの荷物だった。
他人宛ての荷物を、勝手に盗み見るとは良い度胸。
「フランス語だね。ということは椿姫様から…?それに、これは…学校の…」
「え、えっと…。それは、その…」
「へぇ…。これは良いね。是非とも前向きに検討するべきじゃないかな」
この家に上がってきて初めて、円城寺の表情が晴れた。
「ちょっと用事があってね、日本に帰ってきたものだから、顔を見せに来ようと思っただけだよ」
そんなことの為にわざわざ来んな、と。
俺がその場にいたら言ってやっただろうに、生憎この時の俺は、『ブラック・カフェ』でオムライスを食べていた。
この場にいなかったことを、後で俺がどれほど後悔するか。
非常に口惜しい。
「…何だか、今日は静かだね。彼はいないなかい?」
円城寺の言う「彼」が誰を指すのかは、寿々花さんにもすぐに分かった。
「うん。悠理君は今いないよ。お留守番なの」
「ふーん。君に愛想を尽かして、家出でもした?」
円城寺にそう聞かれて、寿々花さんは、悪戯がバレた子供のようにびくっ、と身体をふるわせたが。
「…違うよ。お友達とお出掛けするって…」
消え入りそうな声で、寿々花さんはそう答えた。
しかし、円城寺は特に興味がないようで。
「ふーん?使用人か召使いの身分の癖に、悠長なものだね」
「悠理君は…使用人でも召使いでもないよ?私の大切な…お友達だもん」
「あんな分家の貧乏人が友達だって?全く笑わせてくれるよ。友達は選ぶべきだと思うね。無月院家の息女として」
「…」
寿々花さんは何も言い返さず、円城寺のいつもの偉そうな説教を聞いていた。
俺がこの場にいたら、塩撒いて追い払ってやっただろうに。
しかし、残念ながら俺はこの場にいない。
よって、今だけは、円城寺は好きなようにやりたい放題だった。
「まぁ良いや。ちょっと上がっていくよ」
「あっ…えっ…」
円城寺は無遠慮に玄関に上がってきたかと思うと、まるで自分の自宅に帰るかのように、堂々と家に入ってきた。
俺が留守なのを良いことに。
不法侵入として警察に通報してやれば良かったのだが、寿々花さんはそんなこと、思いもよらない。
ただ困ったように、戸惑ったように、親に見捨てられた子供のごとく、円城寺に好きなように振り回されていた。
勝手にリビングにまで上がってきた円城寺は、ぐるりと室内を見渡し。
うんざりしたように、こう言った。
「相変わらず、貧相な家だね…。無月院家の息女たる者、もう少しマシな家に住んで…お手伝いの一人や二人、雇うべきだと思うけど?」
余計なお世話だこの野郎、と。
俺が聞いていたら、間違いなくそう言っていたに違いない。
「…そんなことないよ。悠理君と一緒に、毎日幸せに、楽しく暮らしてるんだもん。ここはとっても素敵なおうちだよ」
「ふーん…」
寿々花さんの必死の抗弁を、円城寺はどうでも良さそうに聞いていた。
それよりも、と言わんばかりに。
「…?これは何?」
円城寺は、テーブルの上に置きっぱなしにしていた封筒を見つけた。
「あっ…。それは…」
先程配達のお兄さんが届けてくれたばかりの、椿姫お嬢様からの荷物だった。
他人宛ての荷物を、勝手に盗み見るとは良い度胸。
「フランス語だね。ということは椿姫様から…?それに、これは…学校の…」
「え、えっと…。それは、その…」
「へぇ…。これは良いね。是非とも前向きに検討するべきじゃないかな」
この家に上がってきて初めて、円城寺の表情が晴れた。