アンハッピー・ウエディング〜後編〜
『今、良い?電話しても大丈夫?』

「あぁ、うん…。大丈夫」

『今何処にいるの?家?何だか周りが騒がしいけど…』

それは俺が今いるのが、駅のすぐ近くだからです。

なんつーとこで電話してんだ、って感じだな。

電車内じゃないんだからいっか。

「実は、今出先なんだけど…」

『そうなの?…かけ直しましょうか?』

「いや、良いよ。今は一人だし…丁度帰ろうと思ってたところだったから」

さっきまでは雛堂達と一緒だったから、長電話はとても出来なかったけど。

今は一人だし、この後は買い物をして帰るだけだし、時間はある。

…思えばこの時、心苦しいが、母からの電話を後回しにして、真っ先に帰宅していれば。

もっと早く、問題は解決したのかもしれない。

しかし、この時の俺に、そのようなことが分かるはずもなく。

『何処に出掛けてたの?』

「えぇっと…」

『ブラック・カフェ』っていう、店内もメニューも全部真っ黒なカフェで、真っ黒オムライスを食べてました…。

なんて言ったら、俺が何か深刻な悩みでも抱えてるんじゃないかと誤解されかねない。

離れて暮らしていることで、ただでさえ普段から心配をかけているのだから。

ここは母を不安にさせないように、言葉を濁して…。

「カフェ…喫茶店に行ってたんだ。ちょっと…変わってたけど…」

馬鹿か俺は。後半付け加える必要なかっただろ。

『…ちょっと変わった?』

ほら。案の定母が反応してる。

「いや、喫茶店行ってただけだよ。オムライス美味しかった」

『そう?…それは良かったわね』

良かったのか?

…思いもよらない体験が出来て、良かったということで。

『一人で行ったの?…それとも、寿々花お嬢様と?』

「あ、えっと…。寿々花さんじゃなくて、友達と」

『学校の友達?』

「そう。学校の友達」

『…もしかして、先週の土曜日も友達と出掛けてたの?』

え?

「先週…?何で?」

先週の土曜日と言うと、寿々花さんとゲーセン行ってた日のことだよな?

『先週の土曜日にも電話したのよ。でも、出なかったから。忙しいのかと思って』

え、マジで?

俺、母さんから電話もらってたのにも気づかず、ゲーセンで太鼓の鉄人やってたの?

とんでもない親不孝者。

「それは…えっと、ごめん…。遊びに行ってた…」

正直に告白。

『良いのよ、そんなこと』

「なんか、用事だった…?」

『そうじゃないのよ。別に特別な用事があった訳じゃなくて…。ただ、最近あんまり連絡がなかったから…。どうしてるかと思って』

「…」

マジで親不孝者だな。俺。

心配になった母が、痺れを切らして連絡してくる前に、普段からこまめに連絡しろっての。

親不孝な息子で、大変申し訳無い。
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