アンハッピー・ウエディング〜後編〜
ここは謝罪だ。素直に謝罪。

「ごめん。先週は…ひなど、いや…友達じゃなくて、寿々花さんと出掛けてて…」

『寿々花お嬢様と?』

母は意外そうな、驚いたような口調で聞き返してきた。

『そうだったのね。…疲れたでしょう?』

「え?別に…。何で?」

『だって…何処にお出掛けしたのか知らないけど…。寿々花お嬢様ほどの方が出掛ける場所となったら、私達には思いもよらないところなんじゃないかって…』

成程。無月院家のお嬢様に付き合わされて、いかにもお高いブランドショップや。

三ツ星クラスのレストランに連れ回されて、疲弊してるんじゃないかと。そう心配してくれたんだな。

…言えるだろうか。本当のことを。

実はゲーセンでうんまい棒を乱獲してました、とか。

プリクラで目からビーム出してました、とか。

…ともかく、母が心配してくれているようなことは何もなかった。

「…大丈夫だよ。そんなことないから」

『本当に?普段から価値観が合わなくて苦労してるんじゃないかって…』

俺も最初は、それが心配だったよ。

でも、一緒に暮らし始めてみるとびっくり。

「本当に大丈夫。あのお嬢様、予想以上に庶民派だから」

俺と一緒に、手作りの干し柿や糠漬けを喜んで食べてるよ。

『そうなの?…疲れたりしてない?』

「してない、してない。それより、電話出れなくてごめん」

『良いのよ。寿々花お嬢様と仲良く暮らせてるのなら良かった』

仲良く?…まぁ、仲良くやってんのかな。

そういや、喧嘩したこと一回もないしな。

…あれ?でも、それって逆に仲良くないってことなのか?

喧嘩するほど仲が良いって言うだろ?

喧嘩したことないってことは、実はそんなに仲が良い訳では無い…?

…って、それは考え過ぎか。

まぁ、何にせよ、毎日ぼちぼち楽しく気ままにやってるよ。

「大丈夫。俺は達者でやってるから」

『そう?…寿々花お嬢様とも…学校の…お友達とも上手くやってるのね?』

「うん。今日も一緒にカフェに行って奢って…」

あ、また余計なこと言っちゃった。

『…え?奢った?』

ほら。案の定聞き咎められてる。

「いや、その。奢ったけど、今日は特別で」

『まさか…友達に強請られて…?』

俺が雛堂達に強請られて、無理矢理奢らされたみたいな感じになってる。 

確かに今回は、雛堂に言いがかりをつけられて奢らされたようなものだが。

別に普段からタカられてるとか、強請られてるとか、そういうことはないから。

「違う。本当に。普段はそんなことしてないから。いつもは普通に、対等に仲良いんだよ。この間もバレンタインにチョコを…」

『…強請られたの?』

「…友チョコだよ…」

駄目だ。明らかに疑いの声音になっている。

本当違うんだよ。確かに今日は奢りだったけど、それは今日だけだから。今日だけ特別だっただけだから。

口は災いの元、とはよく言ったもんだな。
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