アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「言っとくけど、心霊スポットだの墓場巡りだのは御免だぞ」

ビビってるとかじゃなくて、人様の迷惑になるからな。

それなら、家で家電シリーズのホラー映画でも観た方が、余程肝試しになる。

「分かってるって。今回のは肝試しは肝試しでも…お化け屋敷でやる肝試しだから」

…とのこと。

お化け屋敷…?

またしても、無言で顔を見合わせる俺と乙無。

「お化け屋敷?お化け屋敷なら知ってるよ。ハムスターランドでアトラクション乗ったもん」

ハムーテッド・マンションのことか?

1000匹目のハムスターの幽霊に…とかいう奴。

寿々花さん、あれノリノリで乗ってたもんな。

「おっ。良いねぇ、無月院の姉さん、あんた乗り気だな?」

おい。うちのお嬢さんに変なこと吹き込むなよ。

「お化け屋敷なんて、何処にあるんだよ?」

どっかのテーマパークに行かなきゃ、ないんじゃないのか。

それこそ、ハムスターランドみたいな…。

しかし。

「夏季限定で、近くのデパートのワンフロアを借りてやってるんだよ。ほら、これ」

雛堂が、スマホの画面を開いて見せてくれた。

本当だ。その名も『呪いの廃病院』だってさ。

へー。怖そう。

「夏休みの期間限定なんだ。いかにも夏っぽいだろ?行ってみようぜ」

「…だってよ。どうする?」

俺は、乙無に意見を求めた。

すると、乙無は。

「良いですよ」

意外とあっさり。

「…そういうの好きだっけ?乙無…」

「幽霊なんて、所詮恐れるに値しません。生きている人間の方が余程恐ろしいですよ」

あー、はいはい。成程ね。

ま、それは言えてるかもな…。

「良いなぁ、悠理君達。お化け屋敷に行くんだね」

と、羨望の眼差しでこちらを見る寿々花さん。

羨ましいか?こんなことが…。

寿々花さんも行きたいのなら…。

「無月院の姉さんも、一緒に行こうぜ」

寿々花さんも一緒に連れてってやってくれ、と俺が頼む前に。

雛堂の方から、寿々花さんを誘ってくれた。

「私も?一緒に行って良いの?」

「勿論、大歓迎だよ。むさ苦しい野郎三人組のパーティーに、姉さんみたいな美人が一人入ってくれるだけで、一気に華やかになるもんな」

…むさ苦しい野郎共で悪かったな。

「やったー。悠理君、私も一緒に行って良いって」

「良かったな、寿々花さん」

「うん!おばけ、楽しみだな」

…お化け屋敷、な。

こうして。

夏休みが始まる前からずっと、雛堂が言っていた「夏っぽいこと」は。

近所のデパートで開催されている、お化け屋敷を訪れることに決まった。

しかも、寿々花さんも一緒に、だ。

俺はお化け屋敷には興味がないが、寿々花さんが楽しそうだから、まぁいっか。
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