アンハッピー・ウエディング〜後編〜
しかし、寿々花さんは。

「…どっちも要らないや。今日は」

無視されるかと思ったが、ちゃんと答えてくれた。

いや、待て。答えてくれたのは良いけど。無視されなくて良かったけど。

でも、その返事はいただけない。

どっちも…要らない、だと…?

…ハンスト?

「な、何で…?別のものの方が良かった?」

寿々花さんに夕飯要らない、なんて言われるの初めてで。

俺は慌てていた。いつになく。

いつも何でも、美味しと言って食べてくれる寿々花さんが…。

…今日お米の気分じゃない、とか?

パン?パンの気分だったか?

たまにあるよな。分かるよ。ご飯じゃなくてパンとかパスタとか食べたくなる時。

しかし…。

「ううん、何も要らない」

メニューの問題じゃなかったようで、寿々花さんは拒絶の言葉を口にした。

…何も、って…。

「えっと…じゃあ、あっ、みたらし団子は?お土産の…」

「…要らない」

…!

「みたらし団子…嫌いだった?」

嫌いなのに買ってきてしまったのか。俺は。

もしそうなのだとしたら、俺は今すぐ家を出て電車に乗って『ブラック・カフェ』に行く。

で、改めて別のお土産を買い直してくるよ。

再び行列に並ぶことになっても構わない。

…しかし、寿々花さんが言いたいのはそういうことでもなかったらしく…。

「嫌い…な、訳じゃないけど…」

「…けど?」

「…ちょっと、食欲がないだけ」

「…」

食欲がない。へぇ、ふーん。そんなことがあるのな。

まぁ、たまにはそういうことがあっても不思議じゃないかもしれないが…。

「…熱でもあるのか?頭痛いとか?」

「ふえっ」

俺はそっと手を伸ばして、寿々花さんの額に触れてみた。

熱…ある、ようには感じないけど…。

「ゆ、悠理君…。突然どうしたの?」

俺が突然額に触ったからか、びっくりしたように寿々花さんがこちらを見上げていた。

え?いや、別に…。

「熱があるのかと思って…。でも、熱はないみたいだな」

「病気じゃないよ…。ただ、気分が優れないってだけで…」

…それを病気だって言うんじゃねぇの?

やっぱり、様子がおかしい。

どうする?…具合悪いんなら、病院とか…連れて行くべき?

「…ごめんね。今日、もう寝る」

「あ、寿々花さん…」

「おやすみ」

一方的に、断ち切るように話を終わらせたかと思うと。

寿々花さんは、抱いていたキノコクッションをソファに置き去りにして。

ついでに、心配する俺も置き去りにして、自分の部屋に逃げ帰ってしまった。

「…」

…予想外の塩対応に、俺は少なからぬショックを受けていた。

あんな寿々花さんは…初めて見た。

俺が呑気に、真っ黒カフェで真っ黒オムライスを食べている間に。
 
寿々花さんの身に、一体何があったと言うんだ?
< 603 / 645 >

この作品をシェア

pagetop