アンハッピー・ウエディング〜後編〜
寿々花さんの様子がおかしいのが、昨日今日だけの話だったら、まだ軽く受け流せたが。

休み明け、月曜日の朝になっても。

やっぱり、寿々花さんは昨日と同じ、やつれた姿で起きてきた。

むしろ、クマが一段と濃くなってる気がする。

「だ…大丈夫か…?」

どう見ても大丈夫ではないのは明らかだが、他にどう聞いて良いか分からなくて。

馬鹿の一つ覚えみたいに、俺は寿々花さんにそう聞いた。

しかし、寿々花さんもまた、馬鹿の一つ覚えみたいに。

「…何でもない。大丈夫だよ」

全然大丈夫じゃない癖に、頑なに大丈夫だと言い張っていた。

全く進歩のない俺達。似た者同士だな。

って、笑えねぇよ。

昨日と違って、今朝は早くに起きてきたから、学校に行く気はあるみたいだが。

とてもじゃないけど、元気に登校出来るコンディションには見えない。

「えっと…。朝飯、食べるか?お粥とかの方が良い…?作ろうか?」

寿々花さんの顔色が良くない理由の一つは、昨日一昨日と、ろくに食事をしていないからだ。

結局、『ブラック・カフェ』で買ってきたお土産、真っ黒みたらし団子も、食べてもらってないし。

冷蔵庫に入れて保管してあるものの、今日辺りには食べてしまわないと、痛むぞ。

せめて喉を通りやすいものを、と思って提案したのだが…。

「…ううん。要らない」

寿々花さんは俺から目を逸らすようにして、そう答えた。

そ、そんな…。

「いや、でも…何も食べないのは良くないんじゃ…」

「…悠理君、それよりも」

それよりって何だよ?

今、寿々花さんの不調以上に大切なことがあるのか?

「今日、私のお弁当って、作ってる…?」

え?何その質問。

「…つ、作ってるけど…?」

いつも通り。自分のと合わせて、寿々花さんの分も作ってある。

今日のお弁当は、竹串の代わりに爪楊枝を使って、お弁当に入れやすいミニサイズの串カツべんと、

「そっか。悪いけど私、今日お弁当要らない」

「えっ…」

これだけでも、愕然とするほど驚いていたのに。

それどころか。

「もう、私の分のお弁当は作らなくて良いよ。今日からは学校のカフェテリアでお昼食べるから」

「えぇっ…」

「…それじゃ、私先に学校行くから」

と言って、寿々花さんは結局、お弁当どころか朝食も食べず。

そのまま、俺から逃げるようにさっさと家を出て、登校してしまった。

…一人取り残された俺。と、寿々花さんの分のお弁当。

…なんかもう、身体の中から魂が抜けていった気分。

俺、今日…学校サボって良いかな…?
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