アンハッピー・ウエディング〜後編〜
…そうは思ったけど、やっぱりそういう訳にはいかないじゃん?

俺より遥かに体調悪そうだった寿々花さんでさえ、いつも通り登校していったのに。

サボりたいのは山々だったけどな。

しかし、無理して学校に来ても、授業なんて全く頭に入ってなかった。

その為。





「…悠理兄さん。今日はどうした?無月院の姉さんと喧嘩でもしたのか」

昼休み、真っ先に俺の席にやって来た雛堂に、そう聞かれた。

…喧嘩?

本当に喧嘩だったら、楽だったんだけどな。

「べ、別に喧嘩なんて…」

「今朝から様子が変だぞ。明らかに」

「それは寿々花さんだろ…?俺は正常だよ」

「へぇ?今朝から自分がどんな有り様か、全く自覚していないようですね」

乙無まで、呆れたような口調で俺にそう言った。

どんな有り様、って…。

「一時限目の現代文の授業では、教科書を読むように言われたのに、英語の長文問題を読み始めるわ…」

「クラスが騒然としてたよな。日本語の授業なのに、突然英語で話し始めるから」

…。

「かと思えば、二時限目の英語の授業で問題文を訳すように言われた時は、逆に現代文の教科書を読んでましたね」

「逆だろ。ってクラスメイト全員が心の中で突っ込んでたからな」

…。

「三時限目の日本史の授業では、『徳川15代将軍は誰か』という先生の質問に、『H2Oです』と答えてましたね」

「唐突に元素記号出てきてビビったわ。そんな将軍いねぇ、つーか人間ですらねーし」

…。

「そして、先程の四時限目。体育の授業。バレーボールなのに、ボールが回ってきた瞬間、その場で無意識にドリブルしてたでしょう」

「普通に反則なのに、悠理兄さんが真顔絵でドリブルしてるもんだから、対戦相手もチームメイトも何も言えずに、そのまま試合続行しちまったよ」

…。

…マジ?

「…で、今に至る訳ですけど。何か言いたいことは?」

「…俺、頭どうかしてたのかな?」

「大丈夫だ。それはクラスメイト全員が、先生達も含め、皆分かってることだから」

だよな。

午前の授業だけで、色んなポカをやり過ぎだろ。

何より恐ろしいのは、それらの全ての失敗を、無自覚で行っていたことである。

俺…本当にそんなことしてた?

全然、全ッ然覚えてない。

もし雛堂と乙無の言うことが、本当なのだとしたら。

俺はこの午前中だけで、クラスメイトに多大な迷惑をかけてしまったことになる。

非常に申し訳無い。マジで…無意識だったんだ。

やべぇ奴だよ。どう考えても。
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