アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「おまけに悠理兄さん、今日弁当箱二つ持ってきてるしさぁ…」

と、雛堂は俺が持ってきた二つのお弁当箱を指差した。

こ、これは…。

…仕方ないだろ。

寿々花さんに要らないって言われて、食べ物を捨てる訳にもいかなくて、持ってきてしまった。

二人分持ってきたって、食べきれないのに。

何がしたかったんだろうな?今朝の俺…。

…とりあえず、この寿々花さんの分のお弁当は。

「…雛堂、食うか?」

「え、マジ?それ、もとは誰の弁当だよ?」

「食べる人がいないんだよ…。無駄にしたくないから、雛堂と乙無の二人で食べてくれ」

「やったぜ。棚ぼた。悠理兄さんの手料理は何でも美味いから、有り難くもらうぜ」

あぁ、そうしてくれ。

良かった。無駄にならなくて…。

「今日の弁当は何かなー…。おぉ、見ろよ真珠兄さん。串カツ弁当だ」

「爪楊枝を使って、お弁当に入れやすいミニサイズの串カツにしてるのがポイント高いですね」

「めっちゃ美味そ!いただきまーす」

どうぞ。

「めっちゃうま!こんな豪華な弁当、初めて食った」

「うん、確かに美味しいですね。僕は食事をする必要はないので、食べ物に興味はありませんが…。悠理さんの手料理は、いつも美味しいと思いますよ」

とのこと。

あ、そう…。まぁ、そう言ってもらえるのは嬉しいけど。

なんか違うんだよな…。そうじゃないんだよ。

そのお弁当は元々、寿々花さんの為に作ったものなのであって…。

俺が本当に「美味しい」と言って欲しいのは、雛堂達じゃなくて…。

「…はぁ…」

思わず、俺は重苦しい溜め息をついてしまった。

俺が溜め息をつくのを、雛堂と乙無はじっと見つめ。

「…悠理兄さんが溜め息をつくなんて…。これは重症だな」

「現代文の授業に英語の問題集を開いていた時点で、重症なのは分かってましたけどね」

「で、悠理兄さんがこうなるってことは、間違いなく無月院の姉さん絡みだろ」

ぎくっ…。

「まぁ、それ以外には有り得ないですよね」

二重に、ぎくっ…。

「べ、別に…そんなことは…」

「はいはい、そういうツンデレは良いから。で、どうしたの?喧嘩でもした?」

「…喧嘩じゃねーよ」

「じゃあ、何ですか。理由も言わずに、『もう今日からお弁当要らない』とでも言われました?」

「…」

「…あ、図星でしたか」

…乙無は、何でそんな見てきたかのように的確に分かんの? 

邪神の眷属の頭脳は伊達じゃない、ということなのか。

それとも、そんなに俺が分かりやすいと言うのか?
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