アンハッピー・ウエディング〜後編〜
9月の最初の日、俺達の学生生活が再び幕を開けた訳だが。

…幸先の悪いことを言って良いか?

ぶっちゃけ、今すぐ帰りたい。

新学期始まったばかりなのに情けない、と思っただろう?

俺だってそう思うよ。

まだ夏休み気分が抜けてないのか、と言われたら確かにそうかもしれない。

でも、俺が「帰りたい」って思うのは、俺が怠けてるからじゃないぞ。

もっと別の、環境的な理由がある。

…と、言うのも。

「暑い。あっづい!何だよここは。灼熱地獄か…!?」

「…言うな、雛堂」

言ったら、余計暑くなるだろ。

何も言うな。

「だらしないですね、この程度で音を上げるとは。全くこれだから人間は…」

やれやれ、と両手を上げて呆れる乙無。

あんたも何も言うな。

そして、俺の前に立つんじゃねぇ。

二学期始まったっていうのに、あんたは何でまだ長袖シャツなんだよ。

目の前でそんな暑苦しい格好を見せられたら、見てるだけで体感温度が上がる。

暑い。ただもう、ひたすらに暑い。

俺達だけじゃなくて、クラスメイト皆がそう思っている。

口々に聞こえてくるもん。

「暑い」、「死にそう」、「熱中症になる」って。

分かるよ、その気持ち。

朝から雲一つないカンカン照りで、アスファルトに反射した強い日差しが、ジリジリと肌に焼け付くようだ。

何もせずにじっとしているだけでも、全身がじっとりと汗ばんでくる。

…あっつい。マジで死にそう。

大袈裟だ、って思うか?

だったら、ここに来てみろよ。

死ぬほど暑いからさ。マジで、命の危険を感じるくらい暑いから。

何せ、この教室。…と言うか、この校舎。

「今時、エアコンもない学校なんて有り得るかよ…!?ここ、本当に現代日本か…!?」

…雛堂、言うなって。

言ったら余計惨めになるだろ。

聖青薔薇学園男子部に入学して、はや半年。

女子部との圧倒的な格差に、男女差別だと腹を立てたことは何度もあるが。

今回は、その中でも特別際立ってるな。

まさか、教室の中でエアコンが使えないなんて。

有り得ねぇだろ。新校舎では廊下の隅々までエアコンが利いているというのに。

旧校舎には、教室にさえエアコンがない。

旧校舎の冷房設備と言ったら、精々申し訳程度に、ちっこい扇風機が備わってるだけ。

しかもその扇風機、三年生の教室にしかないんだってさ。

俺達一年生と二年生の教室にはない。

従って俺達は、窓を全開に開いて、外から吹き込んでくる風で暑さを凌ぐしかなかった。

…無風だけどな。今。

そりゃ暑くて死にそうにもなるだろ。当たり前だ。

昨日まで家の中で、エアコンをつけて快適に過ごしていただけに。

突然の灼熱地獄が、余計身に堪える。

砂漠にでも連れてこられた気分だよ。暑くて死にそう。
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