アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「…見た?」

「えっ?」

「勝手に入らないで」でも、「出ていって」でもなく。

寿々花さんは焦ったような顔で、必死に資料を抱いて隠しながら、そう尋ねた。

「見た?…見たの?」

「え、えーっと…見たって…」

寿々花さんの寝顔のこと?それとも…今必死に隠してる、その資料?のこと?

「み…てない、と言いたいところだけど…。ごめん、ちょっと見ちゃった…」

嘘をつくのが忍びなくて、俺は正直に答えた。

「…!やっぱり見たんだ…」

「でも、あの…。一瞬、ちらっと目に入っただけで、そんなまじまじとは見てないから…。それに、なんて書いてあるのか全然読めなかったし…」

「ほんとにっ…?ほんとに読んでない?嘘ついてないよね?」

めっちゃ食い気味。

「う…嘘はつかねぇよ、寿々花さんには…」

「そ…。そっか…」

ほっと胸を撫で下ろしたように、しかし書類の束?資料の束?みたいなものを抱き込んで離さなかった。

…そんなに隠さなくても、どうせ読めないから関係ないんだが…。

「あ、えぇっと…。ごめん、勝手に入って…。一応声かけたんだけど…返事がなかったから…」

「う、うん…」

「晩飯…出来たから呼ぼうと思って。食べるだろ?オムライス…」

「…オムライス…」

「チーズソースの…」

「チーズソース…」

「…どう?」

「…じゅるっ」

お、食いついた。

さすがに、好物には目がないようだ。

しかし。

「…はっ」

簡単にチーズソースオムライスに釣られたか…と思われたが。

突然何かを思い出したように、ふるふる、と首を横に振った。

「ううん。要らない」

「えっ…」

…要らないってどういうこと?

「今日は悠理君のご飯食べない。明日も食べない」

「な…何で?…明後日は?」

「明後日も食べない」

…マジで?何で?

ってことは、明明後日も食べない…?

…ハンスト?やっぱりハンストなのか?

それとも雛堂が言ったように、マジでダイエット…的な?

あるいは、ついに寿々花さんも自分がお嬢様であることを思い出し。

素人の主夫が作った料理なんて食べたくない、と思い直したのか。

それは…うん。仕方ないことなのかもしれないけど、俺としては結構…心に刺さる。

「…じゃあ何食べんの?」

「えぇっと…。…インスタントラーメン?」

またかよ。

結局そこに帰ってくるのか。ジャンクなインスタントラーメンの味が恋しくなったのか?

分かるよ。たまに無性にインスタントラーメン食べたくなる時…ってない?

俺はない。
< 614 / 645 >

この作品をシェア

pagetop