アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「…やべぇ。悠理兄さん、今日はまた一段と…極まってんぞ…」

「午前中の授業、3回くらい先生に当てられましたけど、全部スルーしてましたもんね」

「何回名前呼ばれても、ボケーっとした顔でスルーしてるもんだから、しまいには先生も困ってたよな」

「ついには、我々の存在も忘れてしまったようですし」

「やべぇ…。やっぱやべぇよ…」

雛堂と乙無が、俺の前でボソボソ言い合っていたが。

それさえどうでも良くて、俺はひたすら空を見つめていた。

…大きいな…。…太陽って。

太陽も良いよな。太陽の大きいこと。

あの大きな太陽を前に、俺の悩み事のちっぽけなこと…。

「…悠理兄さん、今何考えてんの?」

「太陽の大きさに…感動してる…」

「帰ってこい、悠理兄さん。帰ってこーい!勝手に宇宙旅行に行くな!」

肩を掴んでがくんがくんと揺さぶられたが、されるがまま。 

「昼飯、そうお弁当食べようぜ!な?今昼休みなんだぜ。悠理兄さん、今日のお弁当は?」

「…弁当…?」

…あぁ、そういや作ってきたんだっけ。

昨日の夜作ったチーズソースのオムライス、そのままタッパーに詰めて持ってきた。

チーズソースがカッチカチになってるが、どうでも良いやそんなことは。

「お、今日はオムライス弁当かー。さすが悠理兄さん。美味しそうじゃん」

「…砂の味がする」

「…砂…!?」

砂場の砂をタッパーに入れて、スプーンですくって食べたら…こんな味なんじゃないかなぁ。

そんなことを考えながら、俺は砂の味のするオムライスを咀嚼していた。

「ちょ、ちょっと味見させてくれ」

「あ、うん…」

「僕も失礼します」

雛堂と乙無が、俺のオムライスを一口ずつ味見していった。

砂オムライスを味見したいだなんて、二人共変わってんな。

「…何処が砂なんだ?冷めてるけど、普通に美味しいオムライスじゃん」

「チーズソースとは、なかなか洒落てますね」

砂オムライスがお洒落で美味しいなんて、二人分変わっ(ry。

…はぁ。

「…空は良いよなぁ。砂食べなくても生きていけるし…」

「…悠理兄さんが意味不明なこと言ってる…」

「哲学者ですね」

…は?哲学?

何のことだ…と思っていたら、雛堂が切実な顔で、

「しっかりしろ。悠理兄さん、現実に帰ってこい」

と言った。

現実…?

「…俺はいつだって現実にいるよ」

「嘘つけ。意識が空の彼方に吹っ飛びかかってんじゃん」

気の所為なんじゃないかなぁ。それは…。

「間違いねぇ。悠理兄さんが『こう』なるってことは…」

「えぇ。…どうやら、寿々花さんとの仲直りは失敗したようですね」

…ぐっ。

痛いところを突かれた俺は、思わず手に持っていたスプーンを落っことしてしまうところだった。
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