アンハッピー・ウエディング〜後編〜
何より、腹が立つのは。

「自分らがこんな暑い思いしてるっていうのに、職員室と校長室はしっかり冷暖房完備してるそうじゃねぇか。ズルくね?」

「…言うな…」

俺達が暑さで死にそうになっている今も。

職員室と校長室だけは、ちゃんとエアコンついてるらしいぞ。

どう思う?これ。

同じ旧校舎にいるんだから。先生達も生徒達と同じ思いを共有しろよ。

先生達は職員室に帰れば涼しいもんだから、生徒がいくら「暑い」と訴えても、大袈裟だとか、そのくらい我慢しろ、だとか。

まるで、生徒が聞き分けのない我儘を言っているかのように、軽くあしらわれてしまう。

我儘じゃねぇよ。アホか。

この灼熱地獄の教室の中で、一日俺達と一緒に過ごしてみろよ。

嫌と言うほど分かるだろうさ。

「いっそ、反乱起こすか?学年中、いや、学校中の生徒を組織して、一斉蜂起しようぜ。革命だ。世界変革の前夜だ!」

と、何やら意味不明なことを口にする雛堂。

暑さで頭おかしくなってんだよ、雛堂も。

気持ちは分かる。俺だって暑さのあまり、いっそ本気で職員室占拠しようかと考えてるくらいだもん。

やろうぜ、マジで。皆で反乱起こそう。

皆が力を合わせれば、勝てるんじゃね?

何なら俺が革命軍のリーダーやっても良いよ。

なんて真面目に考えてるくらいだから、暑さは人に理性を失わせる力がある。

「…エアコンそのものは備わってるんですけどね」

理性を失う俺達を見て、乙無がそう呟いた。

…そうなんだよ。だから、余計腹が立つの。

俺達の視線の先には、教室に天井にへばりつくようにして設置されたエアコン。

あるにはあるんだよ、エアコン。ちゃんとさ。

だから俺達も、一学期の時点では、こんなに暑い思いをさせられるとは思ってなかった。

ちゃんと各教室にエアコンが備わってるんだから、夏になったらこれが動くものと思っていた。

普通思うだろ?エアコンそのものは設置されてるんだから。

まさか、これがただの壊れた骨董品だとは、誰も思わないだろ?

そう、壊れてるんだよこれ。

まんまと騙された。一学期の俺達。

あまりの暑さに、クラス委員が「エアコンは何度になったらつけるんですか?」と担任教師に尋ねたところ。

「この校舎は古いので、職員室と校長室以外のエアコンは故障していて動きません」と無情に言われたときの、俺達の気持ちよ。

思わず皆、時が止まったようにポカンとしてしまった。

…壊れたんなら、修理くらいしろって。

新校舎の女子生徒を、入学オリエンテーションで京都旅行に連れて行く金があるんだったら。

遠足で豪華客船日帰りクルーズに行く金があるんだったら。

旧校舎のエアコンの修理費くらい、ポンと出せるだろうが。

ちゃっかり、職員室と校長室のエアコンだけはさっさと直してる癖して。

これが、故障したのが新校舎のエアコンだったら、すぐさま修理を呼ぶ癖して。

野郎共は、多少暑くても我慢しろ、ってか?

やっぱり、職員室じゃなくて、新校舎に攻め入らないか?

金持ちのお嬢様方にも、エアコンのない灼熱の教室がどんなものか、身を以て体験してもらおうぜ。
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