アンハッピー・ウエディング〜後編〜
その日の放課後。

俺は、寄り道せずに真っ直ぐに帰宅した。

出征する兵隊になった気分。

よし、やるぞ。今日こそやる。

帰宅するなり、寿々花さんが在宅なのを確認し。

真っ先に俺は、寿々花さんの部屋に向かった。

「寿々花さん!入るぞ」

「ほぇっ」

意を決して扉を開けると、中にいた寿々花さんがびくっ、とした。

あ、ごめんノックするの忘れてた。

女性の部屋に、ノックもなしにいきなり押し掛けるなんて、犯罪級だが。

今日ばかりは許して欲しい。非常事態なんだ。

強制突入。

「な、何…?」

寿々花さんはまたしても、机の上に置きっぱなしにしていた書類の束を抱き抱え。

俺に隠すようにして、恐る恐るこちらを振り向いた。

…。

…なぁ。

昨日も思ったけど、その書類の束…何なんだ?

「…何を隠しだんだ?今」

「ぎくっ…」

ぎくっ、って何だよ。

もしかして、ここ数日寿々花さんが豹変した理由がそこに?

だとしたら、大いに興味があるな。

如何せん今日の俺は、既に覚悟を決めている。

納得の行く理由が得られるまで、ここを動くつもりはない。

という、強い意志を持ってここに来た。

「一体何を隠したんだよ。ちょっと見せてくれ」

「だ、駄目だよ。プライベートの侵害だもん」

プライバシーな、プライバシー。

いずれにしても関係ない。寿々花さんのプライベート、思いっきり立ち入らせてもらうぞ。

…え?そんなことしたら余計に嫌われるだろうって?

理由も分からず嫌われるくらいなら、理由くらい分かって嫌われた方がマシだよ。

「じゃあ見せなくて良いから、理由を教えてくれ」

「り、理由って…?」

「ここ何日か、俺を避けてる理由を教えてくれ」

「…そ、それは…」

寿々花さんは戸惑ったように、言葉に窮したように、ぐるぐると視線を彷徨わせ。

出てきた言葉は、

「べ、別に…避けてなんかないもん」

苦しい言い訳だった。

ふーん。へぇ、そう。

何日もハンストして、部屋に閉じこもって出てこない癖して。

それで「避けてない」と主張する訳か。そうなんだな?

…成程。寿々花さんがそういう態度なら、俺も考えがある。

「しらばっくれんなよ。思いっきり避けてるだろ」

「そんなことないもん」

「あっそう。じゃあ、俺今日からこの部屋で生活するよ」

「えっ」

「避けてないんなら、別に良いだろ?」

…自分でも、相当トチ狂ったこと言ってんなぁとは思う。

が、これくらい言わなきゃ、肝心なことは何も聞き出せないと思ったから。
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