アンハッピー・ウエディング〜後編〜
再び春兆す頃の章6
…さぁ、どうだ。

当たって砕ける精神のもと、俺は全力でぶち当たったぞ。

あとは盛大に砕けるのを待つのみ。

…砕けたい訳じゃないけどな。

「…悠理君…」

寿々花さんは、身体から力が抜けたのか、それとも隠そうとする気力を失ったのか。

必死に覆い被さって隠していた、書類の束を手から離した。

…結局その書類の束、何なんだ?

ここからじゃよく見えないし、見えたとしても日本語じゃないから読めないんだけど…。

「…悠理君。ごめんね」

…何を言うかと思ったら。

「何に対して謝ってんだ?」

「その…。悠理君に…いっぱい悩ませてしまったこと…」

あぁ、そう。

「悪いと思ってんなら、その理由を教えてもらいたいもんだな」

「…それは…」

「言えないようなことなのか?何で?…誰かに口止めされてるとか?」

「く、口止めなんて…されてないけど」

じゃあ何だよ。

「言ったら俺を傷つけるから、とか?」

「…そ、そうじゃなくて…」

「…何だよ?」

「言ったら…私が傷つくと思って…」

…これは予想外だった。

自分かよ。

「何で寿々花さんが傷つくんだよ。誰だ?あんたを傷つける真似をする馬鹿は」

「…悠理君かな…」

「…俺かよ…」

え、何?全部俺のせい?俺のせいなんですか?

身に覚えねぇなー…。

「俺は寿々花さんに何をしてしまったんだ?」

「そ、それは、その…」

「で、その書類は一体何なんだよ?ちょっと見せてくれ」

「あぁっ…」

俺は、強引に寿々花さんの手元の書類を一部、手に取った。

止めようとしたが、もう遅い。

え、強引?

非常事態に付き、合法。

紙切れを取り上げて見たところ、それは紙切れと言うより、薄い冊子になったパンフレットだった。

…何だこれ?

書いてある文字が全部アルファベットで、しかも英語ですらないから全然読めない。

けど、パンフレットの表紙に大きく載ってる写真。

この写真の建物…。なんか…学校?みたいな…。

外国の学校なんて見たことないから、はっきりとは言えないけど…。

「…ん?」

パンフレットの間に挟まっていた白い紙切れが、ひらひらと床に落ちた。

こちらもくちゃくちゃに丸められて、皺だらけになっているが…。

よくよく皺を伸ばして開いてみると、こちらは日本語の書類だった。

えぇっと…。何々…?

「フランス…。留学プログラム…。長期滞在…?」

「あ、あわわわわ…」

目が点になる、とはこういう時のことを言うんだろうな。
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