アンハッピー・ウエディング〜後編〜
えーっと…。

このパンフレットって…。外国?フランス?の学校のパンフレットで。

寿々花さんが断固として隠そうとしていた、この資料一式は…留学の為の…。

…はぁ、留学。

「…寿々花さん、留学するのか?」

「ほ、ほぇ…」

「ほぇ」ってイエスなのか。それともノーなのか。

あるいは、まだ考え中って意味なのか。

寿々花さんは、ぐるぐると視線を彷徨わせてさら。

ついに、観念したように白状した。

「…こ、この間のど、土曜日に…。悠理君がいない間に、ゆ…郵便屋さんが来て…」

「はぁ…」

「フランスにいる椿姫お姉様から…。お姉様が留学してる学校の資料と…留学の案内資料が送られてきたの」

…そうだったんだ。

俺が『ブラック・カフェ』で黒いオムライス食べてる間に、この家に誰かが来たんだろうかと疑っていたが。

まさか…犯人は郵便屋さんだったとは…。

いや、郵便屋さんは悪くないけどな。

椿姫お嬢さんから郵便…。それも、椿姫お嬢さんが現在留学中の学校の…。

ってことは…つまり…。

「…寿々花さんも留学しろって?椿姫お嬢さんと同じ学校に?」

「…何も命令されてる訳じゃないよ。考えてみたらどうか、って…。資料を送ってくれただけで…」

…成程。

「私の留学してる学校に、あなたもどう?」って誘ってきたってことか。

椿姫お嬢さんはどういうつもりで、寿々花さんに留学の資料なんて送ってきたのか…。

この場にいない椿姫お嬢さんに、その真意を確かめることは出来ないが…。

自分の留学先が気に入ってるから、妹にも勧めているのか。

あるいは、寿々花さんも「無月院家の娘として」、ステータスの一つとして留学を経験させようとしているのか…。

…そんなに必要なもんかね?留学なんて。

別に外国なんて行かなくても、家で勉強すれば良いじゃん。って、俺は思うんだけど。

俺がそう思うのは、俺が庶民だからなんだろうな。

金持ちに生まれたら、そのステータスの一つとして、留学くらいは当たり前なのかもしれない。

寿々花さんと同じくらい金持ちのボンボンである円城寺も、優雅にイギリス留学してるって話だし。

「うちの学校じゃ…海外留学は、それほど珍しいことじゃないし…」

もごもごと言い淀みながら、寿々花さんはそう教えてくれた。

お嬢様揃いだからな。聖青薔薇学園女子部は。

「椿姫お姉様みたいな、年単位の長期留学は滅多にないけど…。夏休みや春休みだけの短期留学プログラムくらいなら、割と普通に行われてるから…」

「へぇ…」

短期だろうが長期だろうが、留学ってだけで凄いと思うけど。

何なら海外旅行ってだけで、「へー凄い」って思う。

如何せん俺は、パスポートの一つも持ってない貧乏人だからな。

…で、まぁそんなことはどうでも良いんだけど。

俺より聞きたいのは。

「…寿々花さん。あんた、行くつもりなのか?」

椿姫お嬢さんがそうしているように、寿々花さんもフランスの学校に長期留学するつもりなのか。

その答えが聞きたかった。
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