アンハッピー・ウエディング〜後編〜
もし寿々花さんが、「うん、留学するつもり」と答えたら。

果たして、俺はなんて言うつもりなんだろうか?

自分でも分からなかった。

どうするのかは…寿々花さんが決めることだろ?俺じゃなくて…。

だから寿々花さんが「行く」と言ったら、俺に口を挟む権利はない訳で…。

寿々花さんの答えは。

「…まだ分からないの」

…だ、そうだ。

あー良かった。ホッとした。

…。

…何で俺がホッとしてんの?

寿々花さんが留学しようがしまいが、俺には関係ないじゃないか。

「どうしようかなって思って…。迷ってるところで…」

「…ふーん…」

「本当に留学するとなったら、色々大変でしょ?」

「そりゃそうだろ…。言葉も通じるか分からないし…って、寿々花さんは英語もフランス語もペラペラだから、言葉の問題は大丈夫なんだっけ…」

でも、ハードルは言葉の問題だけじゃないからな。

荷物まとめて引っ越すだけでも、大仕事だよ。

隣の県に引っ越すのとは、訳が違うんだからな。

ホームステイって奴?になるのだろうか。

それとも学生寮とか…?

どっちにしても、現地の…向こうの人と生活を共にする訳で…。

日本人同士だって、見知らぬ人と一つ屋根の下一緒に暮らすのは、簡単なことじゃないのに。

全く知らない外国の、異文化の生活に飛び込むなんて…。

余程勇気と度胸がないと、そんなこと出来ないぞ。

しかも、短期留学ならまだしも…長期留学って…。

「…長期ってことは、椿姫お嬢さんみたいに、何年も向こうで暮らすってことか…?」

「…うん。高校の三年間だけじゃなくて…。椿姫お姉様は、そのままヨーロッパの大学に進学したから…」

すげーな、金持ちの感覚って。

大学というだけでも、上流階級って感じがするのに。

ヨーロッパの大学だってよ。それって東大より偉いのか?

日本語の試験だって難しいのに、よくもまぁ外国語の試験なんて受けられるもんだ。

俺は多分一問も解けないな。自信がある。

…いや、そんなことより。

それじゃあ寿々花さんも、椿姫お嬢さんみたいに。

フランスの高校に通って、ヨーロッパの大学を受験して。

年単位で、ずーっと外国で暮らすってことなのか?

…え、マジ?じゃあ帰ってこねぇの?

「…」

我ながら最高に間抜けな顔で、俺は口をぽかーんと開けて呆然としていた。

「ゆ、悠理君?」

「…」

「悠理君。悠理くーん。おーい。起きてー」

「…」

「…はっ!あんなところにUFOが」

「えっ?」

釣られて寿々花さんの指差した方向に視線を向けたが、勿論フェイクである。

しまった。寿々花さんじゃあるまいに、簡単な手に引っ掛かりやがって。
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