アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「悠理君…。大丈夫?」

「…俺は…別に…大丈夫だけど…」

嘘である。

全然大丈夫じゃない。実は今、頭の中パニック状態である。

「す、寿々花さんこそ…。留学の話…な、何で言ってくれなかったんだ?」

別に隠すようなことじゃないだろ。

結局、俺は何の為に避けられてたんだ?

「だ、だって…それは…」

「…それは?」

「悠理君にまで背中を押されたら…行かない訳にはいかなくなっちゃうから…。離れ離れになるの、怖くて…」

「え、なんて?」

寿々花さんは、俺に聞こえない小さな声で、口の中でもごもごと何かを言った。

…よく分からないけど。

根っからの貧乏庶民の俺には、海外留学なんて無縁過ぎて、相談しても何の助けにもならないから…。

だから、俺には何も言わずに黙ってたのだろうか?

ごめんな。俺、留学どころか、去年の今頃まで自分は中卒だと思ってたくらいだから。

そりゃ、何の手助けにもなってあげられない。申し訳無い。

「食事全部ボイコットされてたのは何で?」

「え、だって…。…もし留学したら、…もう、悠理君のご飯は食べられなくなるでしょ…?だから…」

え、そういう理由だったのか?

「俺の料理が不味いとか、貧乏臭いからとかじゃなくて…?」

「何で?悠理君のご飯はいつも美味しいよ?」

「なっ…んだよ、それ…!」

へなへな、とその場に脱力してしまいそうになった?

悪意あってボイコットされてた訳じゃないんだな?そうなんだな?

それが分かってホッとした。

「留学するか否かは関係ないだろ…。飯くらい普通に食べてくれよ」

「だ、だって留学したら、もう食べられなくなるから…」

留学したら、の話だろ?

今は日本に居るんだから、それまではいつも通り、一緒に食事すれば良いじゃん。

俺は何の為に、カチカチのみたらし団子を自分で食べたんだよ。

「俺が嫌いじゃないのなら、頼むから普通に食事してくれ。自分の為だけに作ると思ったら、やる気が出ないの何のって…」

「そ、そんな…悠理君のこと嫌いだと思ったことなんて一度もないよ。ずっと大好きだもん」

「あぁそう。良かった」

心の底から良かったと思ってるよ。

少なくとも、嫌われてるんじゃないんだって分かっただけで。

でも…新たな問題が浮上した。

「…行くのか?フランス…。留学…」

「…分かんない。どうしよう。…まだ迷ってるの」

…こればかりは、俺に指図出来ることは何もなかった。
< 626 / 645 >

この作品をシェア

pagetop