アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「寂しいのだったら、その気持ちを素直に伝えるのは悪いことじゃないと思うわ」

「…でも…そんなこと言ったらすず、いや、その人を困らせるだけじゃ…。それに、それは本人の決めることであって、俺の口出し出来ることじゃ、」

「あら。どうして?」

いや、どうしてって言われても…。

…そうじゃねぇの?寿々花さんの将来のことなんだから、寿々花さんが決めるべきであって。

俺の意見がどうであろうと、何の関係も無い…。

「だって、大切な方なのでしょう?家族同然の」

「は、はい…」

「だったら無関係じゃないわ。例え血が繋がってなくても、その人を心から大切に思っているのなら、関係ないがないことなんてないはずよ」

そ、そんなきっぱりと。

しかも、諭すような優しげな口調で。相変わらず口元には微笑みを浮かべて。

小花衣先輩の姿は、さながら聖女のようだった。

「きっと悠理さんが思っているように、その人も悠理さんのことを大切に思ってるはずだわ。もう一度自分の気持ちに素直になって、きちんと話し合うべきよ」

「…素直に…ですか」

「えぇ。お互い、自分の気持ちに素直になって…」

…それが一番難しいんだよなぁ。

でも…確かに小花衣先輩の仰る通り。

結局のところ、俺はただ逃げていただけなのだ。

自分の心の弱さを認めるのが嫌で。

だっせぇよな…。我ながら…。

「そうだわ。何なら、悠理さんも一緒に留学したらどうかしら」

「はっ!?」

名案とばかりに、小花衣先輩はポンと手を叩いて言った。

全然名案ではありません。

「む、無理ですよ。俺に留学出来るほどの頭は…」

「大丈夫よ。英語で日常会話が出来るなら、最低限何とかなると思うわ」

「…」

これほど楽観的な意見を、他に聞いたことがあるだろうか。

女子部の生徒基準で考えないでくれ。

誰もが皆、英語ペラペラだと思ったら大きな間違いだぞ。

俺の英語力で海外なんて行ってみろ。数時間で途方に暮れているか、身ぐるみ剥がされてるかのどっちかだ。

「いや、そんな、とてもじゃないけど俺じゃ…」

はっ、待て。よく考えてみろ。

小花衣先輩のこの提案、案外悪くないのでは?

何も、俺まで寿々花さんと留学する必要はない。

付き添いとして、一緒にフランスについてって、そこで一緒に住めば良いんじゃね?

よし、それで全部解決だな。

寝不足のせいなのか、考え過ぎて頭がおかしくなってるのか、俺はそんな極論に辿り着いていた。

いや、まぁ、これは冗談だけど。

…5割くらい冗談。

「ありがとうございます、小花衣先輩…。参考になりました」

「いいえ、気にしないで。どちらに転ぶにしても…お互い納得出来る結論が出ると良いわね」

そう言って微笑む小花衣先輩の笑顔は、今日も最高に素敵だった。
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