アンハッピー・ウエディング〜後編〜
逆だと思うんだけどな。

『俺が』寿々花さんに釣り合わないのであって。

『寿々花さんが』俺に釣り合わないのではない。

それなのに、寿々花さんは自分に劣等感を感じて、俺に相応しくないと思いこんでいるらしい。

逆だろ。

「だから…留学して、勉強して、偉くなったら…少しくらい、悠理君に釣り合う女の子になれるかな、って思って…」

…まさか。

「…あんたが最初、留学に乗り気だったのは…それが理由なのか?」

「…」

返事の代わりに、こくり、と頷く寿々花さん。

…嘘だろ。そんなことの為に。

留学動機が、俺みたいな凡人に相応しい人間になる為、だって?

金の無駄使い過ぎるからやめろ。

「円城寺君も、きっとそういう意味で留学を勧めたんだと思う」

「いや、あいつは…。多分あいつのことだから、俺を貶す為に言ったんだと思うぞ…?」

「えっ…?」

…寿々花さんは気づいてないようだが。

円城寺はあくまで、『俺が』寿々花さんに相応しくないと言ったのであって…。

その言葉を、おかしな方向に誤解した寿々花さんも悪いが。

とりあえず円城寺は、次にうち来た時脳天にゲンコツを食らわせるということで。決定。

つーか二度と来んな。円城寺お断り!の貼り紙貼っといてやる。

「…とにかく、とにかくだよ、寿々花さん。よく覚えておけ」

「う、うん」

「釣り合うかどうかなんて、気にしなくて良い。俺は一度として寿々花さんに…椿姫お嬢さんみたいなご立派な人間になって欲しいなんて思ってない。今の寿々花さんで充分だ」

さっきも言ったろ。寿々花さんは寿々花さんだって。

椿姫お嬢さんを倣う必要はないのだ。

ましてや…本当は留学なんて行きたくないのに、無理して行こう、だなんて。

そんなことしなくて良い。俺はそんなこと求めてないから。

「だから…遠くには行かないでくれ。一緒に居てくれ。…ずっと」

「…うん、私も悠理君と同じように思ってるよ」

そう言って。

寿々花さんは、俺の両手をぎゅっと握った。

「ずっと一緒に居るよ。大好きな悠理君の傍に。ずっと」

そ…そうか。

それなら…もう、何も心配することはないな。

これって、あれじゃね?一件落着、的な…。
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