アンハッピー・ウエディング〜後編〜
翌日。

悩みも吹っ切れ、晴れやかな表情で登校。

いやはや。世界が明るく見えるな。

今日の空の青さと比べたら、昨日までの空は灰色だったよ。

俺がご機嫌で登校すると、それを待っていたかのように。

「あっ、見ろよ。悠理兄さんがもとに戻ってる。仲直りしたんだな!」

「本当だ。一目瞭然ですね」

早速、雛堂と乙無が俺の変化に気づいたようだ。

俺って、そんなに分かりやすいのだろうか。

「良かったなー!悠理兄さん」

「あぁ…。心配かけたな…」

「全くだぜ。このまま無月院の姉さんがいなくなったら、いずれ不登校の引きこもりになるんじゃないかって、心配だったんだからな」 

「い、いや。そんな大袈裟な…」

「自分が昨日までどれほど死んだ魚の目をしていたか、自覚がないようですね」

…マジで?そんなに?

確かに、昨日と今日では空の見え方さえ違うけれども…。

「その表情を見るに、寿々花さんの留学話は流れたんですね」

「あぁ…やめるって。留学資料一式、ゴミ箱に叩き込んでたよ」

そのゴミは、今朝、まとめてゴミ捨て場に捨ててきた。

今頃ゴミ収集車が来て、回収してくれているはずだ。

あばよ。もう二度と帰ってこなくて良いからな。

「まぁ、落ち着くところに落ち着いたって感じですね」

「勿体ない気もするけど、行きたくねーのに無理に行くことはねーわな」

うん、そうそう。

二人の言う通りだ。

「…心配かけたな。二人共…」

「全くだぜ。全く人騒がせって言うかさー…。まぁ良いけどよ。仲直りしたんなら」

悪かったよ。

「ふっ。僕は全く気にしていませんよ。邪神イングレア様の支配する、真に平等な世界が実現されれば、たかがイチ人間の悩み事など、取るに足りない些事な事ですから」 

乙無、謎のドヤ顔。

はいはい。中二病お疲れ様。

「悪いと思ってんなら、今度お詫びにまた悠理兄さんの手料理をご馳走してくれよ」

と、雛堂。

ここぞとばかりに見返りを求めてきやがるな。まぁ良いけど。

「分かったよ。また今度な」

「おぉ、宜しく!」

何せ今の俺は、非常に機嫌が良いからな。

走って地球一周しろと言われたら、喜んで走り出しそうな勢い。

…冗談だけど。

…全く、我ながらチョロい。

こんなつまんないこと、ありふれた些細なことで一喜一憂して。

「…それが幸福ってものですよ、悠理さん」

俺の心の中を覗いたかのように、乙無がポツリとそう言った。

…本当。

「全くだな」

精々幸福な今を、噛み締めながら生きていくよ。

今までも、これからもな。
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