アンハッピー・ウエディング〜後編〜
二学期が始まって、丁度一週間が経った頃のこと。

「…ん…?」

その日の朝、俺はぼんやりとした頭で目を覚ました。

…なんか、妙に身体が重い気がする。

頭や腕や脚に、ずっしりと重りをつけられたような…。

…。

…って。

「…やっべ、遅刻…!」

ぼんやり天井を見上げていた俺は、急いで飛び起きた。

途端に、ズキッとこめかみの辺りが傷んだ。

その痛みに顔をしかめながらも、俺はベッドサイドの時計に目をやった。
 
案の定、寝坊。

いつもより一時間は寝過ごしていた。

ヤバい。急がなくては。

急いで支度してダッシュで学校に向かえば、授業には間に合いそうだったが。

今日は、お弁当を作っている時間はなさそうだ。

あぁもう、何をやってるんだか。

普段は体内時計で自然と起きるから、つい目覚まし時計をセットするのを忘れていた。

って、そんなことしてる場合じゃねーや。

「寿々花さん、寿々花さん!朝だぞ、早く起きろ!」

俺は急いで飛び起き、寿々花さんを起こしに寝室に飛び込んだ。

案の定寿々花さんは、気持ち良さそうに寝息を立てていた。

「起きろって、早く!遅刻するぞ!」

「むにゃむにゃ…。悠理君ったら、電子レンジのおばけとそんなに仲良くなって…」

「どういう夢を見てるんだよ…!?良いから、早く起きろ!」

俺とおばけを仲良くさせるな。冗談じゃねぇ。

「むにゃ…んん…?」

俺に揺すり起こされて、寿々花さんはようやく寝惚け眼を開いた。

「あれ…?ここにも悠理君がいる…?」

「やっと起きたか。早く支度しろ。寝坊…」

「夢の中でも悠理君に会えて、現実でも会えた。何だか嬉しいねー」

喜んでる場合じゃねぇっての。

嬉しいねー、じゃないんだよ。

状況分かってるか?状況。遅刻寸前なの。

「でも、悠理君。何だか今日、声が変だよ…?それに、何だか顔が赤いような…」

「それは焦ってるからだろ?そんなことは良いから、早く着替えて支度してくれ。悪いけど、今日弁当作れそうにない」

学校のカフェテリアか、ベーカリーででも買って食べてくれ。

「そっかー。仕方ないね。分かったー」

こくり、と素直に頷く寿々花さん。

よし、それで良い。

あと、他にやるべきことは…。毎朝、学校に行く前に洗濯をしていたのだが。

残念ながら、今日はそんなことをしている余裕はなさそうだな。

何なら、ゆっくり朝飯食べてる時間もないや。

焦ってるせいか、食欲も全然ないし。良いか。

寿々花さんの分だけ、簡単に朝食を用意しよう。

「悠理君、着替えたー」

制服に着替えた寿々花さんが、ダイニングルームに降りてきた。

「あぁ。簡単だけど、朝飯用意したから食べてくれ」

「…?悠理君は食べないの?」

「俺は良いや。食べ終わったら、食器置いといてくれ」

「そっか…。…それは良いとして、悠理君、今日具合悪いんじゃない…?」

は?

「そりゃ悪いよ。遅刻寸前なんだから当たり前だろ」

何を当然のことを。

うっかり寝過ごしたが為に、こんなに焦ることに。

俺としたことが、大変情けない。
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