アンハッピー・ウエディング〜後編〜
朝の遅刻が尾を引いているのか、その日の授業はいつもよりしんどかった。

と言うか、暑いせいだろ。

いつも暑い旧校舎だけど、今日はひときわ暑いように感じる。

いつもはジリジリと焼き付くような暑さだけど、今日は違う。

身体の奥が、ぽかぽかと熱を発しているような…そんな暑さ。

おまけに、どうにも頭がぼーっとして…授業に集中出来ない。

それに、朝起きたときに感じた頭重感が消えない。

手足に重りを入れられたようなダルさも、相変わらず。

そのうちに収まるだろうと思って、しばらく放っておいたが。 

一時間目が終わり、二時間目が終わり、ついに昼休みになっても治らなかった。

何だろう?…熱中症か?

「あれ?星見の兄さん。今日昼飯は?」 

いつもなら、昼休みは雛堂と乙無と一緒に昼食を摂っている。

出会ったばかりの頃は、「邪神の眷属は食事の必要がありませんから」とか言って、昼食を痩せ我慢していた乙無だったが。

最近では痩せ我慢に疲れたのか、「仕方ないから、あなた方に合わせてあげますよ」と言い訳をして、一緒に食べている。

…が、今日は俺が痩せ我慢する番だな。

痩せ我慢って言うか…。本当に食欲ないんだけど。

「弁当作り損ねたからな。今日…」

「遅刻ギリだったもんなー。でも、だからって昼飯無しはキツいだろ。学校近くのコンビニに買いに行ったら?」

「いや…良いや」

わざわざ校外に出てまで、買いに行く元気がない。

そこまでして食べなくて良いや。…なんか、今日食欲ないし。

「でも、何も食べないのは良くないんじゃないですか?」

そんな言葉を、乙無の口から聞く日が来るとはな。

「その言葉、一学期の自分にかけてやったらどうだ?」

「脆弱な人間と一緒にしないでください。僕はイングレア様の血をこの身に授かりし、邪神の眷属であり…」

あー、はいはい。いつものな。いつもの。

もう聞き飽きるほど聞いて、うんざりしてるっての。

ただでさえ身体がダルいのに、乙無の中二病になんて付き合ってられないな。

「真面目な話、何か食べたほうが良いと思いますけど。午後から体育ありますし」

「あー…。そうだっけ…?」

午後の授業、体育なんだよな…そういえば。

いつもなら、体育と聞いても何とも思わないが…。

今日は何だか…妙にしんどい気がする。

体育館も暑いもんな。当たり前だけど、エアコンなんてついてないし。

「買いに行くのが面倒なら、僕の昼食を分けましょうか?どうせ僕は食べる必要ありませんし」

「おぉ。自分の菓子パンも齧って良いぞ。今日は焼きそばカレーパンと、いちごジャムあんパンだ」

乙無に加え、雛堂までもが、俺に昼食を分けてくれようとした。

焼きそばパンなのか、カレーパンなのか。

ジャムパンなのか、あんパンなのか。

それぞれ、別に分けた方が美味しいのでは?

…気持ちは嬉しいけど。

「ありがとうな。でも…今日、あんまり食欲ないから…良いや」

そういえば、俺…朝食も食べてこなかったんだよな。

朝から食欲ないんだ。焦ってたから仕方ないけど。

「おいおい。大丈夫か?星見の兄さん、風邪でも引いたんじゃね?」

「体育の授業で倒れないでくださいよ。人間は脆い生き物なんですから」

「大丈夫だって…。大袈裟だな」

漫画じゃないんだから、そうそう授業中に倒れるかよ。





…と、思っていたのが既にフラグだったとは、この時の俺は知らなかった。
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