アンハッピー・ウエディング〜後編〜
すると寿々花さんは、何を思ったか。

「どれどれ…」

「ちょ…何だよ?」

寿々花さんがぴったりとくっついて迫ってきて、俺は思わずたじろいだ。

しかし、寿々花さんは。

「ちょっとじっとしてて、悠理君。こうしておでこをくっつけたら、熱があるかどうか分かるんでしょ?」

…何処で習ってきたんだ?それ。

そんなことしなくても、体温計で測れば…って。

…体温計、ないんだった。うち。

だからって、おでこをくっつけて熱を測ろうとするな。

そんな古典的な方法があるかよ。

大体、今の俺に無闇にくっつくんじゃない。

「風邪が感染るだろ、離れとけって…」

「?悠理君の風邪菌なら、私に感染っても良いよ」

意味分かんないんだけど、どういうこと?

感染って良い風邪菌があるかよ。

「どれどれ、お熱はーっと…。背高いね悠理君、ちょっとかがんで」

「ちょ、何なんだよ…。くっつこうとするなって」

「…熱いね。やっぱりお熱あるよ、体感…50度くらい?」

「…それじゃ死んでるよ、俺」

大袈裟なこと言うんじゃねぇ。そんなに高くないだろ。

精々37〜38度くらいだろ。…多分。

体温計がないから、何とも言えない。

学校で測ったとき38度だったから、多分今もそれくらい…。

「お熱あるんだね、悠理君。可哀想。よしよし、痛いの痛いの飛んでいけしてあげるね」

「いや、良いって…」

それじゃ飛んでいかないから。迷信だから、それ。

「じゃあ、私が悠理君の為に看病してあげるね」

…いや、そういうのも要らないから。

むしろ、何もしないでくれ。

「大丈夫だよ、何もしなくて…。感染るから近づくなって」

「えーと、看病って何すれば良いんだっけ…。氷の中に枕を入れて、氷枕を…。あっ、逆だった。枕の中に氷を入れるんだ」

「…」

非常に不安が残る看病である。

本当、もう、何もしなくて良いから。

「私、知ってるよ。ネギを頭に巻くんだよね。そしたら熱が下がるって」

「…それも迷信だって…」

「え?違うの?」

…なんか、あれだな。

余計熱が上がりそう。

やらないでくれよ。長ネギが勿体ないから。

「それから、それから…そうだ。悠理君の代わりに、お掃除とお洗濯頑張るね」

「やらなくて良いから…。明日、まとめて俺がやるから」

「大丈夫だよ。ちゃんと出来るよ」

何処から出てくるのか、その自信は。

あんたに掃除をやらせたら、水の入ったバケツを階段にぶち撒け。

ついでに、金ダライに洗濯板で洗濯しようとするだろ。

とてもじゃないけど、やらせる訳にはいかない。
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