アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「本当、何もしなくて良いから…。むしろ、何もしないでくれ。頼むから」

今だけは、余計な手間を増やさないでくれ。

フォローする元気がないんだわ。申し訳ないけど。

「悠理君、本当にしんどそう…。…大丈夫?」

「大丈夫、大丈夫…。大丈夫だから…」

「ふらふらしてるよ、悠理君。何処に行こうとしてるの?」

「え?いや…。夕飯作ろうかなと思って」

買い物にいけなかったから、有り合わせになってしまうけど…。

「お熱があるのに、料理なんてしちゃ駄目だよ」

「いや、でもこのくらいは…俺の役目だし、これ」

「病気の人の役目は、きちんと寝て早く治すことだよ?」

「…」

珍しく寿々花さんが、至極まともなことを言うものだから。

返答に困る。

すると。

「大丈夫だよ、悠理君。私に任せて。今日のご飯は私が作るから」

えへん、と胸を張って宣言する寿々花さん。

…本気で言ってんのか、それ。

「不安…不安しかないんだけど…?」

「任せて。私の得意料理を振る舞うから」

「な、何だよ?得意料理って…」

「大丈夫、大丈夫。こっちは私に任せて、悠理君はお部屋で寝てて」

「あ、ちょ、ちょっと」

寿々花さんに、ぐいぐいと背中を押され。

強制的に、自分の部屋に帰されてしまった。

「よーし。悠理君の為に、頑張ってご飯作るぞー」

キッチンから、寿々花さんが意気込む声が聞こえてきた。

…。

やっぱり止めた方が良いんじゃね?キッチンを爆破される前に。

でも…そろそろ、俺も限界だった。

もう無理。マジでしんどい。

寿々花さんを止めに行く気力もなく、そのままベッドに倒れ込む。

キッチンから、およそ料理をしているとは思えない異音が聞こえてきた…気がするが。

もう、どうにでもなれ。

人間、マジで眠いときとか、マジで疲れたときって、全てがどうでも良くなるだろ?

あの現象だ。

もう無理。キッチンが爆破されたら…その時は無月院本家に、リフォーム代を請求するってことで。

それ以上何も考える余裕がなく、俺はそのまま目を閉じた。

願わくば、キッチンが無事に済みますように。
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