アンハッピー・ウエディング〜後編〜
寿々花さんが部屋に入ってくる気配がして、俺は目を覚ました。

「悠理くーん…。…起きてる?」

「…」

「あ、寝てる…。じゃあ、起こさない方が良いかな。起きるまで、ここに座って待ってよう…」

「…起きてるよ…」

「あ、起きてる」

さっきまで寝てたけど、寿々花さんが入ってくる気配がして目が覚めた。

今の俺と、同じ部屋に座って待ってるんじゃない。感染るから近寄るなって、何回言えば分かるんだ。

「どうした…?何かあったか?」

「あ、うん。ご飯作ってきたの。悠理君の為に」

「…」

…そういや、そうだった。

料理作るね、って張り切ってたんだっけ…。

…一応、焦げ臭い匂いはしないな。

今の俺、鼻詰まってるから匂いが分からないだけかもしれないが。

炭と化した料理を出されるのかと、思わず身構えた。

すると、案の定。

「あのね、悠理君の為に美味しいもの作ってあげようと思って、色々頑張ったんだけど…」

「あ、あぁ…」

「お野菜は溶けちゃうし、お魚はなくなっちゃうし、上手く出来なくて」

野菜が溶ける…のは、まだ分からなくもない。

魚がなくなるって何?

「色々試したんだけど、やっぱり最初に思いついた奴にしたの」

「そ、そうか…」 

それ、人間が食べても大丈夫なものだよな?

「悠理君、食べられそう?お腹空いてる?」

「え、えーっと…」

「何か食べた方が良いよ。食べなきゃ元気出ないから」

…だよな。俺もそう思う。

正直、食欲はあまりない。

朝食も昼食も抜いてるのに、全然空腹を感じない。 

何か食べた方が良いのは分かるんだが…。

でも、寿々花さんの手料理なんか食べたら。

風邪どころか、そのまま永眠する可能性があるのでは?

「持ってくるね。ちょっと待ってて」

と言って、寿々花さんはキッチンに料理を取りに行った。

…すげー嫌な予感するんだけど。 

いざというときの為に、エチケット袋を用意…したかったが、手元にないので。

あぁ、もうゴミ袋で良いや。 

いざとなったら、これに吐こう。

ゴミ袋を引っ掴んで、枕元に用意していると。

小さな、お一人様用の土鍋をお盆に乗せて、寿々花さんが戻ってきた。

「お待たせー…。…って、ゴミ袋持ってどうしたの?」

「い、いや…何でもない」

まさか、寿々花さんのトンデモ料理を警戒して、エチケット袋を用意したとも言えず。

「そ、それより…一体何を錬成、いや、何を作ったんだ…?」

「おじやだよ。食べやすいかなぁと思って」

成程。風邪を引いてる時の定番メニューだよな。

俺も昔、小学生の時、風邪を引いたらよく作ってもらったよ。

しかし問題は、寿々花さん作のおじやが。

風邪を治すどころか、悪化させる毒物なんじゃないかってことだ。

調理実習で家庭科室を爆破し、家庭科の先生を失神させる腕前を持つ「料理上手」な寿々花さんだぞ?

果たして、どんな恐ろしいものが出来上がっているのかと思ったら。

「はい、どうぞ」

恐る恐る、土鍋を開けると。

…卵の浮いた薄茶色っぽいおじやが、ほかほかと湯気を立てていた。
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