アンハッピー・ウエディング〜後編〜
…あれ?なんか思ってたのと違うぞ。

めっちゃ良い匂いするんだけど。

これは…味噌かな?味噌のほっこりした良い匂いが…。

「え、えっと…?」

どんな劇物が出てくるのか、と身構えていたせいか。

予想外の代物が出てきて、反応に困る。

折角、エチケット袋代わりのゴミ袋を握っていたというのに。

むしろ、芳ばしい味噌の香りに、吐き気どころか、食欲が湧いてきた気がする。

…何これ?奇跡?奇跡か何か?

「…あ、買ってきたのか?レトルトの雑炊…」

最近よく売ってるよな。お粥や雑炊のレトルト。

気を利かせて、あれを買ってきてくれ…、

「ふぇ?ううん。自分で作ったよ」

「…マジで…?」 

よく見たらおじやの中に、雑に切った魚肉ソーセージとか入ってて。

確かに、レトルトを温めたものではなさそうだ。

ってことは…マジで寿々花さんが作ったってこと?

俺、熱で頭がおかしくなって幻覚を見てる、とかじゃないよな?

「じゃあ、食べさせてあげるね。熱いから、ちゃんとふーふーして…」

「…」

「はいっ、あーん。どうぞ」

…何?この唐突な展開。

考えたら考えるほど分からなくなりそうだったから、もう考えるのやめるよ。

頭と心を無にして、寿々花さんが差し出すスプーンを口に入れる。

すると。

「…!?何だ、これ…」

ワンチャン、見た目は美味しそうなのに味はとんでもない爆弾級の不味さ…!という展開も警戒していたのに。

そんなことはなかった。 

見た目通り…いや、見た目以上に…。

「美味しいでしょ?」

「…美味い」

このおじや、マジでびっくりするほど美味しい。

何これ?こんなの食べたの初めてなんだけど。

「これ…これ、本当に寿々花さんが作ったのか…?」

「ふぇ?うん」

「…」

…そうか。やっぱり間違いじゃないんだな?

俺はおもむろに両手を伸ばし、寿々花さんの顔をべたべたと触ってみた。

何してんのかって?…触診だよ。

ほっぺたをむにむにしてみたり、鼻を摘んだりしてみた。

寿々花さんは抵抗することもなく、ぽやんとした顔でされるがまま。

…ふむ、成程。

「…そっくりさんが変装してるのかと思ったけど、やっぱり本人だな…」

俺の見間違い…ってこともなさそうだ。

ということは、本当に寿々花さんが、この絶品おじやを作ったのか…?

どういう天変地異が起きたら、あの天才的「料理上手」の寿々花さんが、マジでこんなに美味しい料理を作り出せたんだ?

明日、槍でも振るの?

槍どころか。斧まで振ってきそうなんだが。
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