アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「これ…何処で習ったんだ?レシピは…」

学校か?家庭科の調理実習か?

聖青薔薇学園女子部が、家庭科の調理実習に熱を入れてくれた賜物…。

かと、思われたが。

「レシピ…?レシピはないよ。私が考えたから」

…えっ。

「す…寿々花さんが考えたのか?」

「うん」

「…」

…改めて、おもむろに手を伸ばし。

寿々花さんのほっぺたを摘んで、むにむにしてみる。

…やっぱり本人だよな?

ついでに、俺は自分の頬をぎゅっと抓ってみた。
 
いってぇ。

ってことは…夢じゃないのか…。

「ね?悠理君。私、料理得意なんだよ」

えへん、とちょっと得意げな寿々花さん。

いつもなら「はいはい」と受け流すところだけど、今回ばかりは同意せざるを得ない。

「まさか、寿々花さんにこんなものが作れるとは…。俺、寿々花さんのこと見くびってたかもしれない…」

「もー。見くびっちゃ駄目だよ。私だってやれば出来る子だから」

「そうか…。そうだったんだな…」

じゃあ、これまでの数々の失敗は何だったんだ?

たまたま、今回奇跡的に上手く行っただけなのか?

やっぱり何かの天変地異が、

「インスタントラーメンなら、悠理君に会う前から、ずっと作ってたから」

「…」

「私の得意料理なんだよ。凄いでしょ?」

…インスタントラーメン?

俺は、おじやの土鍋を見下ろした。

「…インスタントラーメンって、どういうことだ?」

「このおじや、元々インスタントラーメンなんだよ。私のお気に入りの、めるちゃん製麺まろやか塩味噌味」

衝撃の新事実。

おじやだと思っていたものの原型が、インスタントラーメンだった。

「袋麺なんだけどね。まだ戸棚にストックが残ってたから。麺を茹でずに粉末スープだけ取って、お湯で伸ばして、ご飯を入れて…」

「…」

「付属のかやくを半分だけ入れて、生卵と好きな具材を入れて、ちょっと牛乳とバターを入れたら、美味しいおじやが出来るんだよ」

目から鱗、とはこのこと。

長年インスタントラーメンを食べ続けてきた寿々花さんだからこそ分かる、通なインスタントラーメンアレンジ料理。

成程、そういうことだったのか。

これ、元々インスタントラーメンの粉末スープを使ってんのな?

その粉末スープに色んなものを入れてアレンジして、なんちゃって味噌雑炊にしたと。

寿々花さんのアイデアが光る一品である。

「気に入った?美味しい?」

「あぁ…。俺は今、恐らく今年初めて…寿々花さんを心から尊敬している」

「もー、大袈裟だなー悠理君は」

あんたのこと、キッチンの破壊神だとしか思ってなかったよ。

インスタントラーメンに限って言えば、普通に料理上手なんだな。

もう一生、インスタントラーメンのアレンジ料理だけ作っててくれないかな。
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