アンハッピー・ウエディング〜後編〜
非常に小っ恥ずかしい食べ方で、寿々花さんの特製インスタントラーメンアレンジ雑炊を食べた後。

病院でもらった薬を飲んで、ほっと一息ついた。

これで、明日までには熱も下がるだろう。…多分。

「悠理君、大丈夫?他に何かして欲しいことある?」

心配そうな顔で尋ねる寿々花さん。

…こめんな、本当。

逆だよな、立場…。本来なら、俺が寿々花さんに世話を焼かなきゃいけないのに。

無月院家のお嬢様に看病させたなんて、本家に知られたらどうなることか。

でも、今ばかりはその気遣いが有り難かった。

「ありがとうな…。でも、大丈夫だから」

「本当に?…遠慮してない?」

「してない、してない…。大丈夫」

強がりではなく、本当に。

寿々花さんのお手製雑炊のお陰か、それとも薬を飲んだお陰なのか、だいぶ落ち着いた気がする。

「それより、俺と一緒にいたら感染るから…。いい加減、ちょっと離れ…」

「あ、そうだ。汗かいたから、服着替える?今パジャマを脱がせ、」

「ちょ、やめろって馬鹿。さすがにそれは駄目だろ…!?」

あぶなっ。無理矢理脱がせようとするな。

熱でふらふらしているとはいえ、それはさすがに駄目だぞ。一発レッドカードだ。

「本当に大丈夫だから…!」

「遠慮しなくて良いんだよ。こんなときくらい私に甘えてくれれば…」

「甘えるとかじゃなくて、倫理的に駄目だろ…?」

「…りんり?」

きょとん、と首を傾げる寿々花お嬢さん。

駄目だ。分かってらっしゃらない。

あんたは、少しくらい羞恥心ってものがないのか?

「あのな、寿々花さん…。着替えくらい自分で、」
 
と、俺が言いかけたその時。

俺と寿々花さんの間に割って入るように、家の中にインターホンの音が鳴り響いた。

「…」

「…誰か来た?」

「…誰か来たな」

このタイミングで、来客かよ。

俺も寿々花さんも交友関係狭いはずなのに、どうもしょっちゅう人が来るよなぁ、この家…。

どうなってるんだよ?

俺が出られないって時に限って…。

すると寿々花さんは、意気込んですっくと立ち上がった。

「私、出てくる」

言うと思った。
 
今の寿々花さんは、小さい子供特有の、「何でもお手伝いしたい」スイッチが入ってしまっている。

故に止めても無駄だと思うから、出るのは構わないけど…。

「良いか…。訪問セールスだったら、きっぱり断るんだぞ。うちは要りません、って…」

「うん、分かったー」

「それから…もし円城寺が来たら、塩投げて追い払うんだぞ」

「任せてー」

と言って、寿々花さんは玄関に向かった。

…あ、でも円城寺はイギリスに帰ったんだっけ?

それじゃあ、円城寺ではないか…。いや、でも分からない。まだ日本にいるかもしれないし。

とにかく、寿々花さんに有害な来客でなければ誰でも良い…。

玄関の方から、話し声が朧気に聞こえてくる。

えらく話し込んでるようだが、一体誰が…と。

思っていたら。

廊下をぺたぺたと歩いてくる、複数人の足音が聞こえた。

そして。

「よー、星見の兄さん。お元気?」

「お見舞いに来ましたよ」 

寝室の入り口に、見覚えのある二人が現れた。
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