アンハッピー・ウエディング〜後編〜
たこ焼きパーティーの翌々日。

再び、俺達は四人で集まった。

この間、雛堂が言っていただろう?お化け屋敷に行こう、って。

寿々花さんもノリノリだし、断る理由もない。

「楽しみだね、悠理君」

雛堂達との待ち合わせ場所に、早々に辿り着き。

寿々花さんはうきうきと、俺に話しかけてきた。

お化け屋敷を楽しみにする、無月院家のお嬢様…。

なかなかシュールだな。

少なくとも、オペラの十倍は楽しんでそう。

「どんなおばけかな?『冷蔵庫の中』みたいなおばけ?それとも、ゾンビみたいなおばけ?ひゅーどろどろ、って出てくるのかなー」

「さぁ…。どうだろうな?」

もし、あのホラー映画のおばけがリアルに出てきたとしたら。

俺は腰を抜かす自信がある。

え?男の癖に情けないって?

男だろうと女だろうと、怖いもんは怖いんだよ。文句あるか。

…すると、そこに。

「おはようございます、悠理さん。寿々花さんも」

乙無が到着。

「おぉ…おはよう、乙無」

「おはよー」

と、寿々花さんも挨拶を返した。

普段は人見知りの寿々花さんだが、これまで何度も顔を合わせている雛堂と乙無には、若干心を許しているらしい。

…それよりも。

乙無の奴、今日も長袖シャツを着てやがる。

あー。見てるだけで暑苦しい。

「何ですか、悠理さん。出会い頭に人をジト目で見るなんて、失礼ですよ」

「真夏だってのに、暑苦しい格好してるあんたが悪い」

「長袖、暑くないの?」

寿々花さんが、こてんと首を傾げて尋ねた。

よく聞いてくれた。もっと言ってやってくれ。

暑苦しいから半袖着ろ、って。

「ふっ。僕は崇高なる邪神、イングレア様の眷属。人間のように、暑さ寒さなど感じません」

「おぉ、凄い…!じゃあ、熱々のお風呂に入っても大丈夫なの?」

「勿論です。マグマだろうと氷の海だろうと、平気で入れますよ」

「わー。すごーい」

嘘ばっかり。

うちの寿々花さんを騙すんじゃねぇよ。何でも無邪気に信じるからって。

「何より、僕は人前に素肌を晒す訳にはいかないんです」

「えっ。…晒したら、どうなるの?」

「世界が…恐ろしい悲劇に見舞われます」

「…!」

驚愕に目を見開く寿々花さん。

あーあ…。もう、また乙無の戯言に騙されて…。

「大変だ、悠理君…。この人が腕を見せるだけで、世界が大変なことになっちゃうって…。どうしよう?」

「…どうもしねぇよ…」

騙されてんじゃねぇよ、あんたは。

乙無の嘘だから。戯言だから。ただの中二病だから。

乙無が腕を晒そうと半袖着ようと、世界は今日も平和に回ってるよ。

ったく…乙無の奴、寿々花さんがまともに相手してくれるもんだから、いつにも増して中二病全開だな。
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