アンハッピー・ウエディング〜後編〜
…と、強がってはみたものの。

風邪薬を飲んだはずなのに、夜になってもいっこうに熱が下がらない。

身体の中がカッカと熱くて、頭がぼーっとする。

…これって、結構不味い状態なのでは?

雛堂達に買ってきてもらった体温計で、早速熱を測ってみたところ。

「…うわ…上がってる…」

いよいよ、39度の大台を超えている。

マジで…?こんな派手な夏風邪を引くなんて、どんだけ馬鹿なんだよ俺は。

なんて、下らないこと考えてる余裕はない。

さすがにここまで熱が高いと…マジでしんどいな。

すると。

「大丈夫?悠理君。お熱下がった?」

熱を測っていた俺のもとに、寿々花さんが心配そうな顔でやって来た。

あー、うん…。

むしろ上がってたよ、とは…言いたくないよな。余計な心配をかけてしまう。

「だ…大丈夫。下がってるよ…」

我ながら見え透いた嘘だった。

こんなぐったりしてる癖に、「熱が下がった」と言われてもな。

信用出来るはずがない。

案の定、寿々花さんも。

「ほんとに?だって、悠理君凄くダルそうだよ」

と、疑いをかけてきた。

「ほん…。本当に。大丈夫だって…」

「じゃあ、その体温計見せて」

「…」

俺が今片手に持っている電子体温計には、ばっちり「39.2」と表示されている。

これを見られる訳には。

「いや、本当に…大丈夫だから。見なくても…」

「…」

「一晩寝てたら治るから…。心配要らないって」

すると突然、寿々花さんはこちらにつかつかと歩み寄ってきた。

ど、どうした?

不用意に近づくなって。今の俺は病原体そのもの…。

寿々花さんは突然ハッとして、窓の外を指差した。

「はっ!見て、悠理君。UFO!」

「え?」

釣られて、思わず窓の外に顔を向けた瞬間。

寿々花さんはこの隙を逃さず、さっ、と俺の手から体温計を引ったくった。

あっ、やべっ。

慌てて振り向くも、体温計は寿々花さんの手に渡ってしまっていた。

「…やっぱり、39度…。悠理君、お熱上がってる」

「あ…あんた…」

窓の外には、勿論UFOなんていない。

…謀ったな。

こんな古典的な罠に…。いや、引っ掛かる俺が馬鹿なんだけど…。

でも、騙す方も悪いだろ。

「騙したな…?」

「だって、悠理君が体温計見せてくれなかったんだもん。お熱、こんなに高いのに」

「…平気だって…。大袈裟なんだよ」

一晩大人しくしてたら、明日には治ってるって…。

「それより…。あんたはもう、俺に近づくなって…」

「何で近づくなって言うの?私は悠理君が心配なのに」

…そう言ってくれるのは嬉しいけどさ。

「感染るだろ…?風邪が…」

「感染っても良いもん」

…良いもん、じゃないんだよ。

良くねーから。何言ってんの。
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