アンハッピー・ウエディング〜後編〜
しかし、寿々花さんは。

「悠理君が弱ってるの見たら、私も辛い」

「…」

「だから、早く元気になって欲しいの。その為に、私に出来ること、何でもする…。そう思うのって悪いこと?」

と、自分の思いの丈を真正面からぶつけてきた。

「私は悠理君のことが大好きだから。悠理君が早く元気になる為なら、何でもするよ」

「…あ、そう…」

凄く…感動的なことを言われてるような気がするのだが。

如何せん熱が高くて、頭が働かない。

とにかく、寿々花さんは俺の部屋から出ていく気はないらしい。

それだけは分かった。

「それに…しんどい時に、傍に誰も居なかったら不安でしょ?」

「…」

「その気持ちは…私も、よく分かるから…。だから、悠理君に寂しい思いや怖い思いはさせないよ。ずっと一緒にいる」

そう言って、寿々花さんは躊躇うことなく俺のベッドの横にやって来た。

駄目だって言ってんのに、またこんなに近寄ってきて…。

それどころか、俺の手をぎゅっと握ってきた。

「一緒に居るよ。ずっと傍に、一緒に。だから大丈夫。安心して」

この上なく、頼りにならない人…のはずなのに。

そんな風に言われると、途端に安心してしまうの…何なんだろうな。

「よしよし、悠理君。いっぱい頑張ってて偉いね。痛いの痛いの、お星様の向こうに飛んでけー」

小さい子供にでもするように、頭のてっぺんをよしよし、と撫でられた。

…何をやってるんだか。あんたって人は…。

風邪が感染るから離れろって、何度も言ってるのに。

離れるどころか、自分から近寄ってきて、手を握ったり頭を撫でたり…。

…何がしたいんだか。さっぱり分からねぇよ。

追い返したくても、いっこうに立ち去る気配はないし。

俺自身ぼーっとして、頭が働かないし。

…理由は分からないけど、何だか、妙に心地良いし。

…もう、寿々花さんの好きなようにさせておこう。

「子守唄歌ってあげよっか。ゆっくり眠れるように」

挙げ句、そんなことまで言い始める始末。
 
「子守唄って…。あんた、歌なんて歌えるのか?」

「勿論、歌は得意だよ…。まっさかりかっついだもーもたろ〜♪」

「…何なんだよ、その選曲は…」

子守唄じゃねぇし。桃太郎じゃなくて金太郎だし。

「あれ?違ったかな…。じゃあ別のにしよっか。めーだーかーのがっこーはー♪うーみーのーなかー♪」

「…川だろ…」

一匹残らず死ぬって。メダカ。

あぁ、もうめちゃくちゃだよ。

…めちゃくちゃ、なんだけど。

もう突っ込む気にもなれないし、歌詞はめちゃくちゃなのに、不思議と騒音には感じないし。

むしろ心地良い、それこそ子守唄代わりに聞こえてくるのだから。

俺、今相当、熱高いみたいだな…。

「えーっと、他に知ってる曲は…。あるぷすいちまんじゃーくー♪子やぎのうーえで♪おどりましょー」

ヤギの上で踊ってるし…。

あいっかわらず、アホだなぁ…と思いながら。

心地良い「子守唄」の中、俺はゆっくりと目を閉じた。
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