アンハッピー・ウエディング〜後編〜
って、ふざけてる場合かよ。

「言わんこっちゃない。ちゃっかり俺からもらってんじゃねぇかよ…!」

「何にももらってないよ?」

「嘘つけ。ちょっと触らせてみろ」

「あ、それは、」

寿々花さんの額に、手のひらを当てて熱を確認。

ぽっかぽかしてる。貼らないカイロみたいに熱い。

絶対熱あるって。体温計で測らなくても分かる。

つい数日前まで、俺もそうだったから。

「やっぱり熱あるぞ。ちょっと測ってみろ」

一家に一台、あって良かった体温計。

雛堂と乙無が買ってきてくれた体温計が、これほど役に立つとは。

「大丈夫なのに…。ちょっと暑いだけだよ」

「良いから」

ぴぴぴ、と体温計が鳴ったので見てみると。

「38.1」とのこと。

ほらな。言わんこっちゃない。

「見てみろ、これ」

体温計が弾き出した数字を、寿々花さんの目の前に見せつける。

動かぬ証拠、という奴だな。

そうだというのに。

「大丈夫だよ。私普段の体温高いから」

などと言い訳を始めた。

いくらあんたが子供体温だろうが、38度超えたらどう見ても発熱してるよ。

「今日は学校休んで、一日大人しく寝てろよ」

「平気だよ。私、元気だから」

「あー、はいはいそうだな。とりあえず部屋に戻って、そしてベッドに戻れ」

「大丈夫だって言ってるのにー。もー…」

と、口を尖らせたかと思うと。

「…悠理君」

寿々花さんが、真顔で振り向いた。

「どうしたよ?」

「…今、すっごいね…喉が痛い」

「…だから、風邪引いてるって言ってるだろ」

いい加減強がるのやめて、潔くベッドに戻れっつーの。

いきなりふらついて倒れてくれるなよ。…俺みたいにな。

「ったく、言わんこっちゃない…」

あれだけ近寄るなって言ったのに。

何だかんだ、熱が下がるまでずっと俺の部屋に、俺の近くにいたからな。

そりゃ感染るのも当然ってもんだ。

むしろ、昨日一昨日とよく元気だったな。

いや、もしかして昨日も既に、風邪の兆候が現れていたのではないか?

昨日の時点で体調の変化に気づいていれば、市販の風邪薬を飲んで、予防出来たのかもしれないが。

寿々花さんが頑なに認めないから、結局発熱。

まぁ、こればかりはしょうがない。

俺が熱出てるとき、あれだけ傍にいたんだから、感染ることは予想出来たはず。

もっと用心しておくべきだったんだよ。

って、先に感染したの俺だから、偉そうなこと言えないけどな。

ともあれ。何にせよ。

今度は、寿々花さんの番だな。
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