アンハッピー・ウエディング〜後編〜
渋る寿々花さんを宥めすかし、半ば強制的にベッドに戻してから。

俺は、後ろ髪を引かれる思いで学校に向かった。

俺も一緒に学校休んで、看病しようかと申し出たのだが。

「へいきへいき。大丈夫ー、…けほっ」という、何とも不安な返事をもらった。

熱があるとはいえ、意識ははっきりしてるし。普通に喋ってるし。

俺がいたら、むしろゆっくり休めないのかもと思って。

風邪薬と体温計とミネラルウォーターと、いざというとき外部にヘルプを求められるよう、俺のスマホを枕元に置いてきた。

如何せんあの人、携帯電話というものを持ってないからさ。

大丈夫…だとは思うけど、こうして一人で寿々花さんを家に残してくると…途端に不安になる。

…やっぱり俺も休んで、付きっきりで看病するべきだったかな。

すると。

「お、星見の兄さんじゃん。風邪治ったか?」

「おはようございます、悠理さん」

「あ、雛堂…。それに乙無も」

友人が、俺に声をかけてきた。

金曜日はどうも。

制服と鞄、届けてくれたお陰で、体操着で登校せずに済んだよ。

…それはそれとして。

「元気になったのは良いことだが、お礼、忘れてないよなぁ?」

腕組みして聞いてくる雛堂。

分かってるっつーの…そんな念を押さなくても。

「何奢ってもらおうか、乙無の兄さん。柿の種とか?」

「…駄菓子じゃないですか…」

やっす。あんたはそれで良いのかよ。

世話になったからな。

「今回は本当、助けられたから…。二人共、喫茶店でパンケーキセット奢るくらいはするよ」

「マジかよ。やったぜ!善意は押し付けとくもんだなー。チョコバナナパンケーキで頼むよ」

「バニラアイスと生クリームトッピングで、宜しくお願いします」

はいはい。好きなもの注文してくれ。

「じゃ、早速今日行く?放課後にでも」

と、雛堂。

俺もそのつもり…だったのだけど。

残念ながら、今日は…。

「いや…。ごめん、今日は無理そうだ」

「え、何で?今日は月曜だから、園芸委員の仕事もないだろ?」

「病み上がりだからじゃないですか。もう少し回復してからの方が…」

「あ、いや。そういうことじゃないんだ」

俺の都合で…と言うより。

寿々花さんの都合で、ってこと。

「…実は今朝、うちの寿々花さんが…」

「愛しの嫁ちゃんがどうしたよ?」

誰が愛しの嫁ちゃんだって?

適当言うんじゃねぇ。

「しっかり俺の風邪をもらってたみたいで、熱出して学校休んでるんだよ」

「…あちゃー…」

「脆弱ですね。これだから人間という生き物は…」

仕方ないだろ。風邪引いてた俺の近くに、あれだけ長く一緒にいたら。
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