アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「それで星見の兄さん、さっきから冴えない顔してんのな」

冴えない顔で悪かったな。元々こんな顔だよ。

「置いてきて大丈夫だったのか?」

「あぁ…それが心配でな…」

「人間って脆いですからね。大丈夫そうに見えても、一時間後に突然熱が急激に上がって、そのままぽっくり…なんてことも普通にありますし」

おい、乙無。恐ろしいことを言い出すんじゃない。

余計心配になるだろうが。

「放課後になったらすぐに帰って、寿々花さんの看病をしないといけないから…。パンケーキを奢るのは、また今度にしてくれるか」

「へいへい。そういうことならいつでも良いよ。予約しといてくれ」

「それは良いですけど、心配ですね。突然容態が変わったりしてないと良いですけど」

だから、怖いこと言わないでくれって。

想像する。容態が急変した寿々花さんが、ふらふらと失神する姿を。

…ぞくっ。

思わず背筋が冷たくなるから、そういう恐ろしいことを言うのはやめてくれ

大丈夫だって。ただの風邪だろ?

新種の病気って訳じゃない。俺が感染した風邪だよ。

そんな、命に関わるような容態であるはずがない。

熱はあったけど、普通に会話も出来たし…。

…でも。

どんなときでも「絶対」はない。もしかしたら、万が一…ということもある。

考えれば考えるほど、不安が募る。

「…やべ。星見の兄さん、マジで心配そう」

「ちょっと脅し過ぎましたかね。でも事実ですし」

「これじゃあ、授業受けても頭に入らないだろうな」

雛堂と乙無が、何やらボソボソ呟いていたが。

それどころじゃない俺は、まるで聞こえていなかった。

…が。

この状態で授業を受けても、まるで頭に入らない…というのは、本当だった。
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