アンハッピー・ウエディング〜後編〜
その日一日、俺は非常に落ち着かなかった。

頭の中、「寿々花さんは大丈夫だろうか」という不安と心配でいっぱい。

とてもじゃないけど、まともに授業受けてる余裕ない。

こういうときって、一日が非常に長く感じるよな。

まだ午前中。まだ三時間目が終わったばかり。

放課後はまだまだ何時間も先だ。

この間、寿々花さんはどうしてるだろう?

ちゃんと大人しく寝てるんだろうな。勝手に起き上がったりしてないよな?

ずっと寝てても暇だから、って起き上がって、部屋の中でお絵描きでもしてたらどうしよう。

寝とけって。勝手に起きるな。

「…なー、星見の兄さん」

三時間目と四時間目の間の休憩時間に、雛堂が声をかけてきた。

が。

俺の耳には届いていなかった。

遊び道具、見えないところに隠してくるべきだったか。

お絵描きセット一式と、それから積み木やおままごとセットも…。

暇だからって遊んでちゃ、治るものも治らない。

水分補給とか、ちゃんとしてるよな?薬は飲んだのだろうか。

と、あれこれ頭を悩ましていると。

「星見の兄さん、早退した方が良いんじゃね?」

「…は?」

一瞬遅れて、俺はようやく雛堂に話しかけられていることに気づいた。

あ、ごめん…。いたのか、そこに…全然気づかなかった。

いや、それより…今何て言った?

「そうですね。僕もその方が良いと思います」

乙無まで。

早退しろって言ったよな?今…。

「何で早退するんだ?別に体調悪い訳じゃ…」

「そうじゃなくて、無月院の姉さんを看病する為に帰ったらどうか、ってこと」

…あー…。

「心配なんだろ?ずっと心ここにあらずじゃん」

ぎくっ。

「そ…そんなことは…」

「だってよ。自覚なしらしいぜ」

「苦しい言い訳ですね。もしかして、気づいてなかったんでしょうか」

気づいてない?

「…気づくって、何を…?」

「星見の兄さん、二時間目の古典の授業、ずっと教科書逆さまに持ってたぞ」

…えっ。

…そうだっけ?

「それどころか、一時間目の科学なんて、先生に指名されてもスルーだったじゃないですか」

…えっ。

「…スルーしてた?マジで?」

「あぁ、してた。教科書の問題当てられたのに、あまりにも星見の兄さんが険しい顔してスルーを貫くから、化学の先生たじろいでたぞ」

それは大変申し訳ない。

全ッ然覚えてない。本当に。

違うんです、先生。決して反抗していた訳ではなく。

しかし、極めつけは。

「さっきの三時間目の英語の授業なんて、英語の教科書さえ出してなかったじゃん。代わりに家庭科の教科書出して開いてたぞ」

「えっ…ほ、本当に?」

「本当だよ。マジで気づいてなかったのか?あれ。…なぁ、乙無の兄さん」

「えぇ。先生に英文を訳すよう指示されて、突然『美味しいお味噌汁の作り方』なんて読み始めるものだから、教室中固まってましたよ」

「こいつ何処訳してんの?って皆思ったよな」

「…」

…そんなまさか。適当言ってるだけだ…と、否定したかったが。
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