α御曹司に囚われた夜 ~αなのにヒートが起きて、好きでもない社長にいただかれました~



 αのつもりで出会いバーに出入りして、まんまとαに襲われるなんて、馬鹿だ。あまりに惨めで格好悪い。

 抵抗らしい抵抗もできないで暴力にさらされた。

 打ちひしがれて声も出ない。

 マンションのロータリーに駐車すると、社長は部屋までついてきた。



「そのままだと、ドアも開けられないでしょ」



 背中で両手の親指同士を結束バンドで拘束されている。手で引きちぎることなどできない。

 部屋に入り、社長にハサミの場所を教えて、切ってもらう。



「痛いところはない?」



 私は首を横に振った。幸い怪我は無さそうだ。

 私の手は震えていた。その震えを止めるように社長が私の両手を握ったままだった。



「痕になってる」



 社長は私の手を包み込んで、結束バンドの痕を、指の腹でなぞった。二度三度と親指の付け根を、なぞられる。

 唐突にあの夜、社長に触れられたときの感触がまざまざとよみがえった。

 とても優しい手つきで触れられた。今の優しい手つきに、あの夜の優しさが重なる。



 この人、冷酷なんかじゃない。本当はすごく優しい人なんだ。

 そう思ったときには、体は熱くなっていた。



 社長、私もう駄目です、立っていられそうもないです。

 社長を見上げると、目が合った。

 ハッとしたように社長は体を後ろに引いた。



「花沢さん、また、ヒートが」

「はい」

「はい、って。俺、また、襲われるの?」

「はい」

「はい、って。ちょっと」



 後ずさる社長を壁に追い詰めて、その首に腕を絡ませた。

 良い匂い。好きな匂いだ。

 社長ももう当てられてますよ。

 お腹に硬くなったものが当たっている。



 社長は、しばらく、固まっていたが、やがて、αのフェロモンが強まった。背中をグッと抱きしめてくる。



 私、Ωになっちゃった。

 だからなのかな。今日、初めて、男のαに、胸がときめいてしまった。男もαも性対象じゃないのに。

 社長に胸がキリキリと絞られてしようがなかった。



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