α御曹司に囚われた夜 ~αなのにヒートが起きて、好きでもない社長にいただかれました~
目が覚めて社長の寝顔があったのは二回目だ。
やっぱりお肌がすべすべだ。
愛おしさが次から次へと鈴なりに湧いてくる。
社長の髪に手を差し入れてそっと梳いた。
見た目よりもずっと柔らかい髪質だ。茶色がかってふわふわしてる。ああ、この髪、いい。
眉毛も撫でてみた。眉毛も茶色で、意外に太い。やはり柔らかくて触り心地がいい。猫柳を触っているみたいだ。
今まで異性として捉えていなかった人の、毛先までに恋情を感じる。
この人、何歳年下だっけ? 二つ? 三つ?
初めて、社長との年の差について意識した。
スーツで前髪を上げているときは三十代にも見えるが、私服のときにはまだ学生でも通じそうだった。
この人、御曹司なのよね。
私の父親も大企業で役員していたけど、一介のサラリーマンとは住む世界が違う。
初めて、身分の違いも意識する。
私とは差がありすぎる。到底、釣り合わない。
釣り合うだの釣り合わないだの、なんでそんなこと考えてんだろ、私。そんな意味もないこと。
釣り合うわけもないのに。
そんなことより、この人には婚約者がいるでしょうが。熱愛中の婚約者が。
鼻にツンと痛みが走る。
ダメだよ、好きになっちゃ、ダメ、絶対。
そう戒めるのは、既に、好きになっている証だった。
寝顔に口寄せる。頭に頬に肩に、唇を押し付けるだけのキスをする。
唇に重ねたところで、後頭部を抑え込まれた。
起きたの?
受けるキスは朝から凄絶だった。
口内を舌で舐められ、舌で舌を絡みとられる。もう片手は下に伸び、私のお尻を揉んでいる。
こ、これは駄目! ヒートじゃないから、言い訳ができない!
胸を押し返すと、唇が離れた。
「あれ………? 花沢さんだ………」
今、目が覚めたようだった。
夢の中でキスをした相手は私ではない。そりゃそうだ。
ならば、これはセーフよね。婚約者への裏切りではない。
いやいや、私は、涙ぐむくらい傷ついたぞ。だから、アウトだ。
「おはよう」
「おはようございます」
育ちがいいだけあって、どんなときでも挨拶を欠かさない。
社長は、私にキスしていたことを察知したのか、気まずそうな顔をする。
「えっと、ごめんね」
「いえ、お気になさらず。今更のことですから」
既に内臓を何度もこすられているのだ。キスの一つや二つ、どうってことはない。
だけど、もう目が覚めてるなら、私のお尻を撫でるのはご遠慮くださいね?
お尻を撫で回す社長の手に視線を向けると、社長の手はそろりそろりと引っ込んでいった。