α御曹司に囚われた夜 ~αなのにヒートが起きて、好きでもない社長にいただかれました~



「私はαです」

「でも、これはヒートだ。だから恨みのある俺に抱き着いているんだろう」

「えと、恨みはプライベートなもので、仕事上では感謝もあります、一応は」

「一応は……」

「しかし、社長に抱き着きたいと思ったことは一度もありません。はっきりいって社長は私の好みに一ミリもかすりません。圏外です。なのにこうなっています。社長、私に何かしましたか」

「何かしようとしているのはあなたでしょ」

「そ、そう言われれば、そんな気もしますが」

「それとあなたの性別申告はαだ。あなたは性別詐称したことになる。残念だが、クビだ」

「ええっ?」

「有能なあなたを手離したくはないが、騙すような人を雇うわけにはいかない」

「ひどい。仕事上でも恨みを抱えそうです」

「ところで、俺もあなたを抱きたくてしようがない。どうしよう」



 社長から漂う匂いが強まった。私はぎゅっと社長を抱きしめた。ああ、この匂い、たまらない。脳髄がしびれる。



「わ、たしは、あ、るふぁです。だから、ゆうのう、なんです」

「いや、Ωだ。有能かどうかに第二性は関係ない」

 

 性自認を他人に否定されていることへの苛立ちよりも何よりも、目の前の社長が欲しかった。

 腕の拘束を緩めて、顔を見つめる。社長も熱っぽい目で見返している。

 社長の唇、おいしそう。この唇に唇で触れたい。

 社長の顔が近づいてきた。



「いい?」

「何が?」

「このまま離れないなら、手を出すけど」

「いやです。わ、たしは、かわいいおんなの子が好きです」

「では俺を女と思え」

「うぇっ、吐きます」

「失礼な奴だな。では離れろ」

「できません」

 

 私だって離れようとしているのだ。しかし、体が離れてくれない。

 社長は体を後ろに引いた。

 私は追いかけてしがみついた。社長は固まっていたが、諦めたようだった。

 キスして、社長。

 社長は最初はついばむように、次に、噛みつくように口づけてきた。

 ん……、社長の唇、柔らかくて気持ちいい。

 私が社長の髪に手を差し入れてかきまぜれば、遠慮なく口内をかき回される。



 こんなキスはしたことがない。こんな下腹を痺れさせるようなキスは。

 くぐもった水音がする。

 リップ音が鳴り、唇が離れた。



 社長は私を押し返してきた。

 離れようとする。私はその肩を掴んだ。



「待って、行かないで」

「社長室の鍵を閉めてくるだけだ」

 

 戻ってきた社長は、もう社長の顔ではなかった。ひどくふしだらな顔の男がいた。



< 3 / 26 >

この作品をシェア

pagetop