α御曹司に囚われた夜 ~αなのにヒートが起きて、好きでもない社長にいただかれました~
「私はαです」
「でも、これはヒートだ。だから恨みのある俺に抱き着いているんだろう」
「えと、恨みはプライベートなもので、仕事上では感謝もあります、一応は」
「一応は……」
「しかし、社長に抱き着きたいと思ったことは一度もありません。はっきりいって社長は私の好みに一ミリもかすりません。圏外です。なのにこうなっています。社長、私に何かしましたか」
「何かしようとしているのはあなたでしょ」
「そ、そう言われれば、そんな気もしますが」
「それとあなたの性別申告はαだ。あなたは性別詐称したことになる。残念だが、クビだ」
「ええっ?」
「有能なあなたを手離したくはないが、騙すような人を雇うわけにはいかない」
「ひどい。仕事上でも恨みを抱えそうです」
「ところで、俺もあなたを抱きたくてしようがない。どうしよう」
社長から漂う匂いが強まった。私はぎゅっと社長を抱きしめた。ああ、この匂い、たまらない。脳髄がしびれる。
「わ、たしは、あ、るふぁです。だから、ゆうのう、なんです」
「いや、Ωだ。有能かどうかに第二性は関係ない」
性自認を他人に否定されていることへの苛立ちよりも何よりも、目の前の社長が欲しかった。
腕の拘束を緩めて、顔を見つめる。社長も熱っぽい目で見返している。
社長の唇、おいしそう。この唇に唇で触れたい。
社長の顔が近づいてきた。
「いい?」
「何が?」
「このまま離れないなら、手を出すけど」
「いやです。わ、たしは、かわいいおんなの子が好きです」
「では俺を女と思え」
「うぇっ、吐きます」
「失礼な奴だな。では離れろ」
「できません」
私だって離れようとしているのだ。しかし、体が離れてくれない。
社長は体を後ろに引いた。
私は追いかけてしがみついた。社長は固まっていたが、諦めたようだった。
キスして、社長。
社長は最初はついばむように、次に、噛みつくように口づけてきた。
ん……、社長の唇、柔らかくて気持ちいい。
私が社長の髪に手を差し入れてかきまぜれば、遠慮なく口内をかき回される。
こんなキスはしたことがない。こんな下腹を痺れさせるようなキスは。
くぐもった水音がする。
リップ音が鳴り、唇が離れた。
社長は私を押し返してきた。
離れようとする。私はその肩を掴んだ。
「待って、行かないで」
「社長室の鍵を閉めてくるだけだ」
戻ってきた社長は、もう社長の顔ではなかった。ひどくふしだらな顔の男がいた。