α御曹司に囚われた夜 ~αなのにヒートが起きて、好きでもない社長にいただかれました~
翌朝、目を覚ませば、社長の寝顔があった。
社長ったら若いだけあってお肌がすべすべ。まだ25だっけ、6だっけ、7だっけ?
私よりは若かったはず。
社長の個人的な部分に関してその程度の知識しかない。それだけ興味がなかったといえる。
ぼんやりと寝顔を眺めていたが、状況を察して、頭を抱え込む。
二人とも裸だ。
ああああ、どうしよう。社長とやっちまっただ。
いつの間にか、社長室の奥の仮眠室に移動していた。
社長、いつ家に帰ってるのかと思っていたけど、ここに住んでいたのか。そんな間抜けな感想しか浮かばない部屋だ。
次から次へと女やΩを引っ張り込んでいるんだろうな、などという下衆な勘ぐりを抱かせる隙は社長にはない。
確かに社長にはいつも口説く相手を奪われてはいたが、好きになった相手が一方的に社長に恋焦がれるだけで、社長自身は女嫌いかと思うほど身辺は潔癖だった。
それもそのはずで、社長には婚約者がいる。美人の婚約者と熱愛中だ。
私は、その婚約者を裏切らせたことになる。
裏切らせた?
首を横に振る。
私が女として抱かれたのならそうなるが、まあ、これは事故だ。
ヒートしたΩとαが交わったって、そんなの、事故としか受け止められない。
誰がΩだって?
自分の考えにガツンと殴られた心地になる。
ヒートしたΩなどここにはいない。なぜなら私はαだから。
社長の寝顔を見ても、もう、劣情は起きなかった。ただの上司だ。異性とも思わない。
よかった、一時的にホルモンバランスが狂ったか何かだったんだわ。
やはり、私はαだ。
社長に申し訳なさが込み上げてきた。
どうして昨夜、私があんな状態になってしまったのかわからないが、社長を巻き込んでしまった。
社長がとても優しく扱ってくれたことを断片的に覚えていた。
互いに無我夢中で抱き合っているのに、社長は私の肌にあざも一つ残さないほどに、丁寧に扱ってくれた。
それは優しくキスをして、肌に触れて、そして、入ってきた。痛みなどどこにも感じなかった。
そこで私はお腹を押さえた。避妊具の用意など私にはなかったし、社長にもなかっただろう。
早く婦人科に行って避妊薬をもらわないと。
第二性はともかく、男女で睦み合ったのだから、妊娠してしまう可能性はある。
ベッドから降りれば、ゴミ箱が目についた。中に入ったティッシュに、茶色い染みがついているのが見えた。
ハッとして、そのティッシュを新しいティッシュでくるんで、茶色い部分を隠した。
シーツをめくった。良かった、シーツを汚すほどには出血してなさそうだ。
社長に意識してほしくなかった。
処女を奪ったことなど、いや、私が処女を押し付けたことなど、意識してほしくない。
惨めになるだけだ。
今まで、私は抱く側だったのだ。まだ誰ともそういう関係になったことはなかったが、それでも抱く側だった。私の性自認はそうだった。
頭がひどく混乱している。
抱く側なのに、抱かれた。プライドがへし折られていた。
タクシーで自宅に戻れば、玄関に入った途端に、床に崩れ落ちた。涙がこぼれた。