α御曹司に囚われた夜 ~αなのにヒートが起きて、好きでもない社長にいただかれました~



 翌日、社長がフロアに入ってくれば、こそこそとトイレや給湯室に向かって、社長を避けた。

 社長に用事があるときにも、部下を連れて社長室に出向く。

 あの夜のことはなかったことにするための、涙ぐましい努力だ。

 
 そうやって日々を過ごせば、社長も、もの言いたげな目を向けてくることはなくなった。

 あの夜のことは順調になかったものになっていく。



***



 ある週末、出会いバーに出向くことにした。女性同士の出会いを提供するバーだ。

 切実に相手を探しているわけではなかった私は、そういう場所に出向くのは初めてのことだった。

 しかし、社長に「飲めば女に絡んでいる」と言われて、もしかしたら、無自覚に相手を求めているのではないか、と思った。そして、何より、へし折られたプライドを取り戻したかった。



 念入りにメイクを施して、黒いシックなドレスを着込んだ。ルブタンを履く。

 いつものパンツスーツよりもはるかにイケている。



 金も持っていることを見せつけるために、ハイブランドのアクセサリーにバッグも身に着けた。

 Ωにとって、相手の年収は重要だ。彼らは、多くの場合、まともに就労できないからだ。

 確かに社長の言う通り、第二性で能力が決まるわけではないのかもしれない。



 だが、たとえ能力が高くても、Ωはそれを活かす場を恐ろしく制限される。αによって支配される社会は、αに都合良くできている。αを多く抱える企業ほど、Ωの雇用を見送る。Ωのヒートはαにとっても脅威なのだ。

 お陰でΩにはまともな就労先はない。

 よって、Ωは自分を養ってくれそうなαを求める。



 私ならば、十分に養える。会社では既に部長の地位にある。次の株主総会では役員入りするはずだ。

 パートナーズ・エステート(株)は、もともと、私が入社する数年前に起業した不動産ベンチャーだった。5年前に竜ケ崎グループに円満買収されて、同時に竜ケ崎社長がCEOに就任した。



 当時の竜ケ崎社長は、大学を卒業した直後で、しかも、アメリカで飛び級しており、まだ二十そこそこだった。

 あのころは転職を考えたものだが、ここ数年で業績は右肩上がりだ。つくづく転職しないで良かったと思う。

 地位も給料も、会社の拡大とともに爆上げした。買収前から入社している私はこれでも古参で、おかげさまで、会社でもナンバー10に入るお偉いさんだ。



< 7 / 26 >

この作品をシェア

pagetop