天才悪女は嘘を見破る〜王太子の教育係になったはずが溺愛されてます。すべてを奪った義妹一家は自滅しました〜
「兄たちの捜索や入国拒否の取り消しと再会、それと今現在クレバリー侯爵家で従事している使用人たちの就業先の斡旋。このふたつを満たしていただけるなら、婚約のお話をお受けいたします」
「ふふ……では交渉成立だね。リリス、嬉しいよ」

 心の底から嬉しそうにルシアンは笑みを深める。
 アマリリスの弱みにつけ込み権力を使って懐柔したルシアンだが、その表情からはいっさいの罪悪感が感じられない。他者の気持ちに共感できないサイコパスは、時として非情な手段を簡単に用いてくるのだ。

(このやり方がサイコパスらしいわね……)

 今はルシアンの執着心がアマリリスに向かっているためあの手この手で絡め取ろうとするが、興味をなくせばあっさりと解放されるはずだ。その際はまた悪評が流れるだろうけど、そんなことは今更である。

「ではリリス、こちらの書類にサインしてくれるかな? 今交渉した内容は後ほど別紙で用意するから安心してね」

 心底嬉しそうに笑みを浮かべるルシアンが、バサッと音を立てて書類をテーブルの上に置いた。以前教育係になる時はなかったが、今回は用意されている。つまりルシアンは、今回の交渉について最初から勝ちを予想していたのだ。

(はあ……いつか私に飽きて解放してくれたらいいのだけど)

 心の中でため息をついたアマリリスは、すでに用意されていた婚約の書類に苦笑いした。



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